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農園リストランテ

ヤギ飼いのFAQ

ヤギ飼いの方などのために
FAQコーナーを設けました

最近の里親さんには 初めてヤギを飼う方が多く
それは喜ばしいことですが
中には 強い思いだけで引き取り 結局 手におえなくなって帰ってきた仔がいます
少しの知識と注意で防げる事故が発生してしまった という連絡を何度かいただいたこともあります

内容は主に「ヤギ飼い初心者の方」に向けたものになっています
私はヤギを飼いだして10数年になりますが 未だ試行錯誤を繰り返しています
みなさんの少し先を歩いている素人です
そういう立場で書きました
全国山羊ネットワークという会があり ここに更に詳しく 専門的な相談室があります
https://japangoat.web.fc2.com/goat6.html
是非参考にしてください

専門家のレベルに至らない知識と経験に基づいていますし
そもそも 正しい答えがないものもあります
ただ ここに記載したことは
基本的に私がすべて実践のなかで得た 裏づけのあるものです
補足や異なるアイデア 知見をお持ちの方の意見も 反映していきたいと思います
追加の質問も受けつけます
こちらにお寄せください

なお、このヤギ飼いFAQは、ヤギ飼養に関する知識や技術的な内容が中心になります
ヤギという動物との向き合い方などについては「私のヤギ飼い記」にまとめてあります
こちらも眺めてみてください

ヤギはいまや身近なところに居る動物ではないので、イメージが湧かない方が多いと思います。
子どもたちに質問しますと、
・草を食べる
・メェメエ啼く
・白い
・目が怖い
・ポロポロしたウンチをする
などという答えが返ってきます。
汚くて臭い、攻撃してくるので怖いという印象を持っている方も多く居ます。
ヤギは胃を4つ持つ反芻動物で単胃動物である私たち人間やイヌネコとは違った消化システムを持っています。人が良かれと思って行ったことが、ヤギにとっては迷惑なことが多々あります。
肉食動物から襲われる立場にあるので臆病です。遠目にイヌを発見するとジッとみつめながらブルブル震えます。人を攻撃するのは、若い頃にイジメられた経験のあるヤギです。虐めの裏腹で「怖くて攻撃」してくるのです。可愛がって育てれば、そんなことは絶対にしません。明るく好奇心の強い悪戯っ子です。
賢く、高い学習能力があります。最近の研究では、人の表情から喜怒哀楽を判別することもできるそうです。扉のロック解除の方法などを覚え、しかも忘れないので舐めてかかると痛い目に遭います。
体臭はありますが、強くはありません。汚くて臭いという評価はヤギには心外でしょう。飼っている環境が衛生的でないとそうなります。綺麗に飼えば、毛並みも艶々で愛らしいコンパニオンです。ただ、去勢していない牡ヤギは発情シーズンになると「汚くて臭い」と云われて反論できません、相当臭います。
俊敏で、崖や木を登ることが得意です。ヤギは漢字で「山羊」。高くて険しいところが好きなのです。
私は希望者に向けて「ヤギ飼い教室」を開いていますが、その際に使う資料を添付します。ヤギがどんな動物か分かると思います。ご覧ください。

ヤギ飼い教室(サイト)

<ヤギは反芻動物です 生後2ヶ月の子ヤギが30秒頃に反芻する様子が分かります>

雨風をしのぐ小屋と採草地があれば、スタートできます。
・家となる小屋
・その敷料(床に敷く稲わらやモミガラ、オガクズなど)やスノコ
・首輪、ブラシ、リード
・水桶
・塩(鉱塩)
・杭とチェーン、あるいは牧柵
・青草、あるいは乾草
があれば、良いでしょう。

ヤギの飼養は、衛生と栄養と運動を中心に考えれば良いと思います。
イヌやネコを違ってトイレのしつけができない(中には行っている方もいるようですが、生理的に難しいことは確かでしょう)ので、衛生管理を特に大事にしています。
具体的に当園で日常どのような世話をしているかと言えば、
・小屋床の糞の除去
・パドック内の糞の除去
・落ちこぼれた干し草の処理
・搾乳
・餌やり(配合飼料)
・乾草やり
・水やり
・放牧
・ブラッシング、健康チェック
となり、毎朝夕、数時間を要して行っています。
人によって、時間の拘束があったり、飼養環境もいろいろなので、それぞれの事情に合わせたやり方を工夫して行うことが大事だと思います。

<(上)フン掃除の前後とフン取りカゴ、(下)水槽、フン溜めカゴ、清掃後のパドック>

※フン溜めカゴに溜まったフンは、堆肥場に持ち込み、一年ほどかけて完熟させます。

・削蹄(♀は3ヶ月、♂は2ヶ月ごと)
・小屋の敷料の交換と床の水洗い、消毒(季節によるが2週間~1ヵ月おき)
・駆虫(1-2ヶ月おき)
・鉱塩交換(適宜)
・乾草の補充
くらいでしょうか
書き出してみるとこの程度ですが、配合飼料や乾草を手配したり、ハエや蚊の対策をしたり、という作業があります
敷料も汚れのひどい箇所は、気づいた都度、部分的に除去して敷き直します
繁殖を行うのであれば、更に、発情のチェックや人工授精、あるいは種オスの手配、出産介助、除角や去勢、場合によっては人工哺乳などの仕事が生じます
小屋や牧柵の修復や改良も出てきますし、夏場の暑い盛りには、水浴びを兼ねてシャンプーもしてあげたくなるし、日常のルーチンワーク以外にも、なにかとやることはいつでもある、という感じです

<剪定風景>

春:出産のシーズンです。
その準備から出産の介助、そして仔ヤギが離乳して、里子に出ていくまでが、一年でいちばん慌ただしく、また、楽しい時期になります。
冬毛が抜けおちる換毛期です。
春先からは、青草も伸びてきますので、放牧が始まります。
夏:離乳の頃から日に2回の搾乳を行います。たくさん青草を食べ、たくさんのミルクを出してもらいます。
蚊が出てくる季節ですので、小屋の窓を網戸にし、腰麻痺を予防する駆虫を施します。
梅雨の湿りや真夏の暑さには弱いため、とくに通気や衛生に気をつけて育てます。
風のない灼熱の夏日などは、パドック内にスプリンクラーで散水したりして、暑さをしのぐようにしています。
秋:暑熱もやわらいで、ヤギにも過ごしやすい季節です。
青草を惜しむかのように食べ、枯葉なども好みます。
発情がやってきます。翌春に向けた準備がもう始まるわけです。
晩秋には、野の草もほとんどなくなり、乾草に切り替えることになります。
冬:比較的寒さには強い方なので、暖房などで保温する必要はありませんが、雪の季節は、ヤギにとっても閉じこもりがちなシーズンになります。
出産の2-3ヶ月前には「乾乳」と言って、お乳を止めます。体をじゅうぶん休ませる大事な時期になります。

ヤギの寿命は、10-15歳と云われています
成長が早い動物で、生後4ヶ月ほどで性成熟を迎えます 2歳ほどで成長が止まり、10歳令で繁殖年齢を終えます
終生飼養する方も増えており、老齢になりますといろいろ手のかかることもありますが、長年つれ添ってきた人間とヤギの関係は素敵なものです
欧州には、アニマルウェルフェア(Animal Welfare)という価値観があります “感受性を持つ生き物としての家畜”に心を寄り添わせ、誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なく、行動要求が満たされた、健康的な生活ができる飼育方法をめざす畜産のあり方のことです 日本では「動物福祉」や「家畜福祉」と訳されおり、普遍化して欲しいものと思っています

<家畜の福祉は平和な時代だからこそ考えて欲しい命題です>

ヤギを入手する方法として考えられるのは
① 公的機関での入札(家畜改良センター長野支場)
② ヤギを扱っている牧場からの購入
③ 知り合いや里親募集
④ セリ
があげられます
① 純粋種の日本ザーネンを育種改良素材として配布しています 毎年8月下旬から10月上旬にかけて入札制で行います ただし、ペット用、除草用など畜産以外の用途への配布はしません 私の牧場の日本ザーネン種ヤギのルーツはここです
② 各地で仔ヤギの譲渡を行っている牧場があります ネットで調べられます
③ ヤギの里親募集サイトがあり、また、SNSでグループをつくって里親募集などの情報交換をしています 個人レベルで活動している方々が主になります
④ 下伊那山羊市場 長野県下伊那 7月頃 ザーネン種の仔ヤギ中心
  群馬県畜産共進会  渋川市  9月頃 サーネン種の仔ヤギ中心
  愛知県子山羊品評会 豊川市  6月頃 ピグミー種などの多種が出品
②、③のルートで探す場合は、なんどかやりとりを繰り返し、両親の健康状態や血統(近親交配の形跡など)、飼育環境などを確認し、信頼関係を築くことが大事です 私の牧場のアルパイン系の黒ヤギは、ヤギの掲示板サイトで知り合った方とかなりの回数をやりとりし、2年越しで希望が叶い譲渡していただきました
家畜商から「去勢しているので雄ヤギでも飼いやすい」と云われて安価で譲り受けたが、除角もしておらず、力が強いのでたいへんな思いをした、という方もおります 中には、ペットショップで長く置かれていたものを、見るに見かねて引き取った、という方もいらっしゃいます
最近、強く思うことは、丈夫で健康なヤギを導入してください、ということです
病気などでお困りの方から聞きますと、衛生・栄養・運動といった飼い方や環境に由来するものもありますが、ヤギそのものが弱いのではないかと思えるものが多くあります 身近なところに居るヤギが悪いとは申しません しかし、閉ざされた地方のヤギは近親交配が進んで虚弱化の傾向にあることは否めません
一旦、飼い始めると長いつきあいになります 慎重な見極めをお奨めします

譲渡価格は、こちらを参考してください 年ごとに変動します
ヤギセリ市場価格
また、こちらには家畜改良センタ長野支場での落札価格が開示されています

<長野県下伊那の子山羊市場>

いえ、そんなことはありません。ヤギに関われる時間に制限があるならば、その制限の中でできること、しなければならないことを考え、それに必要な環境をつくりこむ工夫と準備をすれば大丈夫です。
例えば、稲わらの下にスノコを敷けば、フンは稲わらに紛れてヤギの体に直に接することが少なくなり、おしっこは下にくぐっていきます。適宜、稲わらを追加し、週末など、時間があるときに、まとめて清掃すれば十分衛生を保つことができる筈です。
バイオベッドにし、年に一度しか敷料を交換しなくて済むようにしている方もおります。
飼う目的や規模、環境(地域、地勢、広さ)により、さまざまな対応のバリエーションが考えられます。

ただ、時間がなかなかとれないとしても、数十分で構わないので、毎日、ヤギたちの様子を「観察」してください。なにか変わったことがないかどうか、を早めに汲み取っていくことが非常に重要。ヤギ飼いの第一歩です。

<高床スノコと稲わら床の事例>

ヤギは、一日あたり3~4㎡の、重量で言うと5kgほどの草を食べると云われます。
ヤギを荒地に放ちますと、数ヶ月で風景は一変してきます。リードによる繋留飼いでも同様で、毎日、杭の位置をかえていけば、その範囲で除草が進んでいきます。広い放牧地では、自分の好きなものを選んで食草するので、ややムラが生じるようです。狭いエリアを転々とさせた方が効果が高いそうです。
問題は、除草したい場所が、このようにヤギを自由に放せたり、繋留に支障のない環境であるか、ということです。例えば、庭木や果樹、野菜などが植えられているエリアでは、そこの雑草だけを食べてくれる、という都合の良いことにはなりません。繋留飼いでは、行動範囲の雑木や株などをきれいに整理しないとリードがからんで危険です。
当園では、花木や果樹、野菜のある農園は、人手で草取りしています。ヤギの放牧地は確保していますが、町所有の山野地を借用しています。つまり、ヤギに青草を食べさせるために、お金を払って土地を借り、その(他人の)土地は除草されるが、自分の土地の雑草は自分が刈っている、という本末転倒なことになっています。
また、秋田という土地柄、晩秋から春先までは干し草です。青草を食べさせられる期間は、年で6ヶ月に至りません。
ヤギの除草効果は高いが、ヤギの生態にマッチングする土地や環境であることが条件になります。耕作放棄地や林野地での放牧が可能な方には絶大な味方になるでしょう。

最寄りの家畜保健所に相談すれば、家保つきの産業医の方を紹介してくれます ただ、その獣医の方が遠方であったりしますと、なにかあった場合、手配やかけつけに時間を要することがあります
ヤギの病理は、同じ反芻動物の牛が参考になります 近くの牛飼いさんに、かかりつけの獣医を紹介してもらう手があります 私は、隣町の動物病院の獣医の方がヤギを診ることもできるので、その方にお願いしています また、その方から出張専門の獣医の方を紹介いただき、主にはその方にかかりつけ診察を願いしております
ご近所にヤギ飼いさんの経験をうかがうことも参考になります 市井に継がれる知恵や工夫には、本などでは得られないものがあります ただ、病気に関しては、専門家に委ねて治療のタイミングを逸しないことが大事です

まずは丁寧な飼い方を心がけてください。
衛生と栄養と運動
これらを怠って、ヤギが不調をきたす、なにか様子が変だと思いながら、しばらく放っておく、いよいよとなって慌てて獣医さんを探す、手遅れになる、ということが非常に多い気がします
ヤギは粗食に耐えて丈夫な動物と言われていますが、だから粗末に飼っても良いんだということにはなりません 我慢強くて躯の変調をなかなか表現してくれません 観察とコミュニケーションがとても大事です

私の場合、常備薬は、そのようにかかりつけの獣医がいるので、多くは用意していません 乳房炎などの治療薬も一時期は持っておりましたが、そもそも一度もかかったこともなく、更新していません 捻挫などした場合の消炎剤・カンメルパスタも効用が薄らいでいくので、人間用の湿布薬で代替すれば良いと思います
駆虫剤:エプリネックス・トピカル、レバミゾール
消毒薬:動物用赤チン
胃腸薬:ビオスリー(ボビノン)
それに伸縮の包帯は常備しています 獣医の方経由で取り寄せています

衛生や栄養をきちんと管理し、適度な運動をさせ、駆虫などの予防をしていれば、めったに病気になりません 虚弱性のヤギはそうはいかないので、ヤギを求める際は血統などを良く確認し、壮健な個体を選んでください
日頃の観察があれば、ちょっとした異変にすぐ気づきます 軽微なものなら自力で回復します 診療で獣医に来ていただくことは年に一度あるかないか、という感じです 但し、状態によっては、一刻も早い処置が求められます その見極めは難しいので、そのためにも気軽に相談でき、すぐに駆けつけてくれる獣医の方をみつけください

<気軽に相談できる獣医師が居ると気持ち面でも安心です>

ヤギは濡れることと、暑熱を嫌います 寒さにはかなり耐性があります
① 1匹あたり1.5坪以上の広さ
② 雨風をしのぎ、強い直射日光と西日を避ける
③ 床の清掃ができる
ものであれば、最低限の条件はクリアされます 餌箱、水桶、鉱塩を置くスペースも確保しましょう 周囲を運動できるパドックで囲むと良いでしょう
湿気が多く、ジメジメした環境は病気を呼びます 通気があって、床を乾燥状態にしておくことが非常に大事です
床を清掃し、敷料を交換するなどの手順をシミュレーションしてください 作業しづらく清掃作業が億劫になると、不衛生な環境に陥ってしまいます
納屋を改良したり、パイプハウスを利用したり、軒下に手づくりする方もいらっしゃいますが、住むヤギと世話をする人間の気持ちになって、設計してみてはいかがでしょうか

<ヤギ舎>

ヤギ小屋の床に敷く、稲ワラやオガクズ、モミガラなどの総称を敷料と云います
①クッション性がある
②滑らない
③乾いていて衛生的
④ヤギの体を傷つけない
ことが大事で、床をコンクリート張りなどしたことによって不足する条件を補います 一言で云えば、腹冷えさせない、ということです

材料として、オガクズ、モミガラ、戻し堆肥、藁、ウッドチップ、コーヒー粕、古紙などがあります 
保水性、吸水性が高いことや軽量であること、吸臭効果などから、オガクズとモミガラ、戻し堆肥をブレンドしたものが良いとされていますが、ヤギを数頭飼いする規模で、オガクズを一定量を購入するのは保管面でも非現実的です
私の場合は、秋田という土地柄、モミガラは「必要な時」に「必要な量」を「無償で入手」できます これが決め手でもっぱらこれを利用しています 敷料としてのモミガラは、吸水性に欠けるため、尿をコンクリート床まで通過させてしまいます やがて表面まで濡れてきますので、そうなる以前に交換して清潔を保っています クッション性や通気性はあるので、これで乾燥して快適な床環境を与えられます
当園のヤギ小屋を訪れた方は、臭いがまったくしないことに驚かれます 毎朝夕には、床の糞をすべて取り除き、床の清潔維持を日常にしています

バイオベッドという発酵床で飼われている方もおります 床にぶ厚く詰めた敷料(堆肥)上でヤギを飼育し、フン尿をその場で敷料と混合し発酵させることによって、ヤギの飼育とフン尿処理を同時に済ませるやりたかです 敷料は、年に一度、重機で収集し、堆肥として売却するそうです 夏場は臭いも出てくるので、常時、換気扇を回していました また、飼養頭数や床の広さ、あるいは気温によって発酵の程度も変わってきますので、現実的に取り入れるには試行錯誤が必要と思います

私は、敷料に落ちた糞を除去していますが、尿はそうはいきません 敷料の濡れや汚れにつながるので、定期的に敷料を交換します モミガラを搬出、コンクリート床を流水洗浄し、トライキルというオルソ剤を200倍に希釈し、噴霧消毒します 糞は朝夕に除去しますが、敷料は2週間、長くて1ヶ月ごとに全交換です 乾燥後に新しいモミガラを敷きます 冬場は土地柄、洗浄・乾燥の工程を省き、またヤギ小屋にいつもヤギが居て空けることができなくなるため、消毒もできないことがあります 小屋への在住率が高いので、汚れ度合いも冬の方がよろしくない状態です 低温で細菌の増殖が抑えられるであろうことが救いです その分、頻繁な交換を心がけています

<米どころ秋田ではモミガラがいつでも入手できる>

採草の場所に杭などを打ち、ロープでつないで飼う方法を繋牧と云います
手軽で、採草の場所を選ぶことができますが、事故も多いやり方なので、注意が必要です ロープが杭や雑木にからまって、ヤギの首や四肢を締めてしまうのです 足が壊死したり、死亡に至ることもあります

① ロープがからまない繋牧器の工夫
・長さ40-50㎝の杭の頭に回転器具をつけて、ロープを繋ぐ
・杭ではなく、廃タイヤを使うと転がして移動できるので、杭の打ち込み作業が軽減される
・2本の長い杭にワイヤを通し、ワイヤ部にロープを通して移動できるようにする
② からみ難いロープの選定
・軽量の(犬用の)ビニールリードは足などにからむと外れないので、事故のもとになる。自重でからみが外れるロープやチェーンを利用
・ロープに水道のホース通すとからみにくくなる
③ ナスカンや首輪の利用 ④ 繋牧する場所の選定と周囲の整理
・ロープの範囲に小枝などが落ちているとそれにロープがからまって回転できなくなってくる またロープと杭の回転部に伸びた草などがからまって回転できなくなることもある。杭の周りの草を刈り、ロープの範囲の声だなどは除去する

繋牧などで採草の範囲を制限すると、毒草の誤食などの恐れも高まりますので、周囲を観察して、あらかじめ抜いてしまいます
また、雨や直射日光を避けるため、簡易な屋根や木陰を用意しましょう
ふだんの居場所から離しますとヤギが不安がります 複数のヤギを、お互いが見える範囲で繋牧すると落ち着きますが、ヤギのロープ同士がからまないように適切な距離をとることが大事です
傾斜地や崖では、足を滑らせて首を吊ってしまうこともあるので、杭は傾斜地の下の方に設置するか、そういう場所は避けましょう
可能な限り目の届く範囲で行い、そうでない場合はときどき様子を見に行くなどの留意が大事です

つなぎ飼いの応用になりますが、リードでつないだヤギを自由に野山で散歩させて採草させるやり方もあります。散歩飼いと呼んでいます
ヤギとのコミュニケーションを図ることができ、好きな草やそうでないものなどが、具体的に分かる実習にもなりますので、お薦めです ただ、何時間でも食べ続けますので、人間の方が途中でギブアップしてしまいます 穏やかな天気で、時間に余裕のあるときにどうぞ

<「ねじれにくい散水ホース」を利用した係留ロープ>

放牧に必要な広さは、生えている草の質や量にもよりますが ヤギ1頭あたり1.33aが目安と云われています 1aとは、10m×10mの面積です。
周囲に巡らせる牧柵には、木や金網のフェンスで固定する場合と、電気柵で簡易に移動できるものがあります

仔ヤギのときは、ほんの小さな隙間からもぐり出てしまうので注意が必要です 牧柵の外に出ることを覚えると、脱柵癖がついてしまいますので、まずは抜けだせない牧柵づくりが大事です
脱柵癖のないヤギは、うっかり扉を閉め忘れるなどて、外に出てしまったときでも、遠くには行かず、その周りをうろうろしています
ただし、雄ヤギは、特に発情期はメスを求めて彷徨しますので、意識的に柵を跳び越えようとするし、場合によっては破壊します。頑丈で1.5m以上の高さの柵が必要となります

金網で牧柵を巡らす場合、斜面部などでは金網を二重にして隙間を埋める必要があります。複雑に重なり合った狭い網目にからまって、骨折を起こすことがあります。注意が必要です

<理想的な放牧地>

電気柵は、杭打ちや電線張りが簡易でフェンス柵に比べると安価です 採草地のゾーンを定期的に変えていく場合などに便利です
電気柵の線は物理的にはひ弱で、簡単にちぎることができますが、通電することでヤギに痛みを覚えさせ、警戒をさせる心理・記憶を突いています つまり、電気柵には馴致が必要で、まずはフェンス柵の内側に、狭い範囲で電気柵をつくって慣れさせ(覚えさせ)、然る後に本来の目的の場所に設置することが良いようです
ヤギは、電気柵に対する学習能力が高く、一度触れて刺激を覚えると、以降、近寄ることはないと云われています

電気柵は、結構、メンテンナンスが必要です
電線に草が触れると、そこがアースになって電気が逃げてしまいます 一番下の電線が、地上から20㎝ほどですから、定期的な草刈りが必要になります

設置の時間や費用がかかるが、恒久的なフェンス柵にするか、その逆のメリット・デメリットのある電気柵にするか、TPOで使い分けることが良いようです

<太陽光を利用した電気柵>

ヤギは余り水を飲まないと云われ、青草で水分も補給していることは確かですが、暑い夏場や乾草が主な季節は、吸い込むようにて飲水します 搾乳中の母ヤギにも吸水は大事です 綺麗な水を、いつでも飲めるようにしておきましょう

小屋の中などの狭い範囲で、水桶を設置する場合は、その位置を少し高めにしておかないと、フンを落としてしまうことがあります
ポリバケツをぶら下げている方もいらっしゃいますが、できれば大容量の容器にたっぷりの水で与えることができれば 多少のゴミなどが舞い落ちても、水の汚れを抑えることができます いずれ毎日、新鮮なものに交換してください

寒冷地では、冬場は水温も下がり、水桶も凍ることがあります。
気温-20℃で2℃の水の給与は、気温10℃の場合と比べてヤギの体の熱発生量が4割程度も増加するそうです 寒冷ストレスの一環です
ヒーターつきの水桶もありますが 私は、年間を通して14-16℃を保つ井戸水を利用し、蛇口を少し開けてバケツに垂れ流ししています
これによって凍結を防ぎ、また暑い夏場はバケツが空になることを防ぎます 夏場は喉の渇きを癒すだけでなく、体温を下げる「ヒートコントロール」が大事になります
バケツは定期的にタワシで水ごけをとり、清掃しています

<温度を感知して弁を自動開閉し、寒冷のときだけ小量の水を流して凍結を防止する栓 賢い!>

蠅や蚊の発生・侵入を避け切ることは結論から言えばできませんが、やれるだけの対策を打ては相応に効果はあります
まずは発生源を環境内につくらないことが大事です 舎内や周辺に水溜まりなどができないようにします ヤギが食べ散らかした干し草なども私は丁寧に除去します 食べ散らかしの干し草が少しずつ堆積する→雨等で濡れ→やがて腐食する→汚染源となる ということを防ぐためです
朝夕に拾ったフンを一旦籠に溜め、一週間程度でこれが一杯になったら堆肥場に持っていきますが、この籠には消石灰を撒きます
越冬した蠅は暖かくなると羽化して活動し始めます 成虫になることを止める薬剤があります まず畜舎やその周辺にそういう場所がないかチェックしてみてください 隣接する庭に廃タイヤや浴槽が捨てられてあったりしませんか 雨水が溜まってボウフラ等が湧きます そのように存外、盲点がある筈です 私の場合、牧場内ではヤギ舎の裏側に若干ですがモミガラが堆積するところがあり、そこにサイクラーテSGという顆粒剤をばらまいています 抑えるべきピンポイントが分かれば、効果はかなりあります 
侵入してきたものは誘引・捕捉したり、殺虫するように努めます
ハッカ油などは効果を維持するのは難しいようです
私はハエは誘引・捕殺(フライマグネット)、蚊は電子線香と忌避剤(どこでもベープ、KAKOI)を使っています キンチョールなどをヤギ舎内に噴霧したりもします
完璧とは言えませんが これらの対策により相応の効果を上げることができます
プロパンガスを燃焼させ 蚊を磁石のように誘・吸引する効果的な機器もあります 手を伸ばせる価格でないのが残念です

<蠅の誘引器と蚊の忌避剤>

<サシバエ対策/一般の蠅にも有効です>

皮下脂肪が少ないので 寒さに強い動物とまでは言えませんが 氷点下15℃くらいまでなら平気で冬超しします 寒くなると密度の濃い冬毛になり 身体に脂肪をまとってふっくらしてきます 
胃が発酵タンクになって熱源の役割を果たします 身体の中にストーブを抱えているようなものです ただ雨雪や風を避ける畜舎は必要です 
ヤギ舎の床にはもみがらなどを敷料にし 腹冷えしないよう配慮しましょう 特に妊婦さんには大事なことです
暑さと湿気は苦手です 人と違って発汗機能が発達していないため、汗による体温調節がほとんどできません
そのため 暑いときは熱中症に注意が必要です 直射日光を避け、風通しのいい場所を確保してあげましょう 濡れた場所が大嫌いなので ヤギ舎の床はいつも乾いた状態を保ってください
温暖化の影響もあってか 秋田でも夏の日中は灼熱です そういう日は井戸水をスプリンクラーして打ち水にしています 

<夏は木陰を>

ヤギは、いろいろなことに興味を示す好奇心の強い動物です
木の皮を齧って食べるなども食性もあるので、小屋の板木などをすり減らしてしまうことがあります 忌避剤などは却って危険なのでそのままにしています ペンキなどを塗る場合は、天然原料のものが良いでしょう

むしろ、怖いのは、異物を摂取してしまうことです
異物(ポリ袋、紙袋、合成テープ、ひもなど)を誤って食べてしまうと、胃から腸のどこかで詰まって座ったまま動けなくなります 紙類についても、多くは天然の植物繊維ではなく、有害物質を含む化学合成物質なので消化されません
ヤギは消化構造が複雑なので手当の手段もなく、数日で死亡に至ることもあります
ヤギの行動範囲に、このような異物を取り入れないことが非常に大事です
私たちの身の回りは、プラスチック製品などで溢れており、なにげなくヤギ牧場などに持ち込んで使ってしまうことがあります
そういう目線で混入していないか、チェックしてみてください

<好奇心の強い動物なので注意を>

ボディコンディションスコアとは、ヤギの栄養状態を1.0-5.0の範囲でスコア化したものです
3が標準で、数字が小さくなったら痩せぎみ、大きくなったら太りぎみになります 乾乳期には3.5、泌乳期には2.8-3.0くらいの安定した状態に保つのが良いと言われています
BCS が 3.00 から 1 単位変化すると体重には 13.7%増減の影響が出るそうです

<ヤギのBCS/Langston University>

ヤギの餌は、粗飼料と濃厚飼料に大きく分けられます

粗飼料とは草のこと。生草、乾草、サイレージに区分できます 茎葉を乾草させたものが乾草(干し草)、乳酸発酵させて貯蔵性を高め、塩抜きの漬け物のようにしたものがサイレージです 繊維質をふんだんに含み、エネルギーやたんぱく質は少ない飼料ですが、草食動物であるヤギにとっては基本の飼料です 栄養源となるだけでなく、消化機能を安定させるため、生理的に必須の飼料です
濃厚飼料とは、穀類(とうもろこし、こうりゃん等)、大豆油粕、糠(フスマ、米 ヌカ等)等のデンプンやタンパク質含量が高い餌です。エネルギーの供給源として重要です

大事なことは、主役はあくまでも粗飼料であるということです
その理由は、Q201にあるルーメンの働きを知ると良く理解できる筈です
濃厚飼料は消化しやすいので、どんどん分解され、ルーメン内で酸を組成します 反芻をうながさないので、ルーメンの酸性化をとめる、唾液が送り込まれません。微生物が弱ってしまい、消化能力が低下していきます
濃厚(配合)飼料の与えすぎに注意しなさい、ということは、こういう仕組みのことを云っています
年齢や性別、季節により異なりますが、濃厚飼料1に対し、粗飼料が3~7という重量比が目安になります

それでは、どういう与え方が良いか、と云いますと、実にさまざまなのです
ヤギ飼いの方と、お話しますと、餌の与え方にも、ひとりひとりの考えや事情が反映されています
放牧させて、生草中心でやっている自然派の方。生草や配合飼料は与えず、乾草とヘイキューブでやっている安定志向の方。配合飼料を適宜混ぜて与えているバランス型の方 その中でも干し草と配合飼料を混合させて与えている方などなど なにかが絶対の正解というものではありません
人間の食事同様で、地域や環境、そこで入手し易い餌の範囲などもいろいろでしょうから、栄養に関わる勉強をしながら、試行錯誤して、ベターな解を探せば良いと思います
まずは、こんな上げ方をすると体調を崩したり、病気になる、というNGを、きちんと理解することが大事だと思います

<濃厚(配合)飼料>

ヤギは、牛やヒツジとともに4つの胃を持つ「反芻動物」です
この反芻動物の食事を管理する上で、とくに一番目の胃であるルーメンを理解することが、とても大事です
ヤギを健康に飼うということは、ルーメンを丈夫に育てるということだと云われます。そこには、微生物の大活躍があります
ルーメンは、反芻動物を支える、巨大な発酵タンクなのです
粗飼料や濃厚飼料という餌の扱い方を、このルーメンという胃袋の存在と働きぶりを通じて説明します

植物には、セルロースなどの繊維質があります
ヤギはこれらの炭水化物を消化してエネルギーに変えています
ところが、人間もそうですが、実はヤギも、自身は、繊維質を分解する酵素を持っていません それを行うのは、ルーメンの中に棲む、細菌をはじめとしたさまざまな微生物なのです この微生物が、セルラーゼというセルロースを分解する酵素やその他の何種類かの酵素を持っていて、消化を助けます
一度飲み込んだ食べ物を再び□の中に戻して再咀嚼(反芻)するのは、植物の繊維を細かく破砕して微生物が付着しやすくようにするためです

反芻の大事な役割が、もうひとつあります それは、ルーメンへ大量の唾液を送り込むことです
ルーメンの微生物が餌を分解する際、酸(酢酸、酪酸、脂肪酸)を組成します。ところが、微生物は酸性に弱いものがほとんどなのです
ルーメンのpHは通常、中性から弱酸性ですが、酸がたまりすぎてpHが酸性に傾くと微生物たちは死にはじめます
※この状態を「ルーメンアシドーシス」と云います アシドーシスとは“酸性状態にある”という意味です
これを中性に戻していくのが、唾液なのです ヤギの唾液はアルカリ性だからです
ですから、どんどん反芻してもらうことが良いのですが、その反芻をうながすのが、繊維質を豊富に含む粗飼料なのです 繊維質は、堅いルーメンマット(ルーメンの中央の層にできる大きな飼料片のかたまり)をつくり、このマットがルーメン壁を刺激して反芻をうながします 反芻は胃壁の刺激への反射なのです
これで弱りかけていた微生物も甦ります 素晴らしい仕組みですね

粗飼料をたくさん与えることにより、ルーメンマットが形成され、反芻がうながされます その結果、ルーメン内の環境が程良い状態で、消化が進むのです。栄養価が高く、好物だからと言って濃厚飼料を過剰に与えると、どんどん消化が進んでルーメンが酸性に傾いたり、ガスがどんどん発生するにも関わらず、反芻がうながされないので、いつまでも正常に戻らず、病気になってしまいます
ルーメンと反芻と微生物の仕組みを理解すれば、餌の適切な与え方も自ずと理解できま。

反芻の様子を見るのはなんとも言えません
反芻するときのヤギの穏やかな表情は、こちらも幸せにしてくれます それもその筈で、反芻はヤギが健やかである証しなのです

乾草を入手する方法は、3つあります。
① 酪農家の方やJAなどから購入する
② 河川敷での刈草の無償提供を受ける(国交省)
③ 自分でつくる
私は①。近所の酪農家の方から、随時、譲ってもらっています。有償となりますが、品質や保存状態が安定しています。
価格は1ロール(直径1.3m程度)で10,000円(税抜)というところです。4匹、1ヶ月でひと巻きを消費するペースです。
プレミアム級のオーツヘイやチモシー、アルファルファの乾草も取り寄せて、適宜与えています。混食させると食欲が増進するようです。
②は「国交省 河川敷 刈草 ○○(都道府県名)」で検索すると、所掌の窓口が検索されます。また、一度利用すると毎年、通知いただけるようです。引き取りにいく必要がありますが、無償です。品質や乾燥状態は、年ごとに、あるいはロールごとにまちまちです。
③は、時間とやる気のある方には面白いと思います。他に主業のある個人の方が、一冬分をこれでまかなうのはたいへんで、現実的ではない気がします。
耕作放棄地の雑草を利用したサイレージの作り方は、こちら↓です。この方法であれば、嫌気発酵のものを適量与えることができそうです。
http://www.nlbc.go.jp/nagano/kachikubumon/yagi_gujyutsujyouhou/yagi_silage/

乾草には、一番草、二番草、三番草があります。
みな、同じ草です。刈り取る時期の違いでそのように区分けしています。
一番草は冬から春の長期間かけてじっくり育ちますので、栄養価が高く、ちょっとかためです。特徴として穂が入っています。
二番草は一番草を刈り取った後、短時間で伸びるのでやわらかめです。
三番草は、さらにその後、秋になって刈り取るフサフサの柔らかい草です。
野草>一番草>二番刈りチモシー>ニ番草>三番草 というようにかたさが違います。
一番草と二番草では、一番草の方が栄養価が高いと云われています。
三番草は、栄養価はさらに落ちますが、繊維分が少ないため、老ヤギや幼ヤギの補助草に向きます。
泌乳量や質が、ご自身の生活に直結する酪農家の方には、きちんとした栄養管理が求められますので、使い分けが大事になります。ヤギの場合でも繁殖や搾乳を行うのであれば、しっかり勉強して臨むことが大事です。ミルクの量や質に直結します。
しかし、もしヤギの健康維持が主目的であるなら、それほど神経質になる必要はないでしょう。一番~三番の使い分けよりも、乾燥状態が良く、雨などに当たってないもの、つまり、食いつきを基準にすれば良いと思います。いくら一番草でも、乾燥が甘かったり、保管状態の悪いものは、湿潤な季節にカビ臭が出てきたり、栄養価も劣ります。

良い干し草は、ほぐしていくと芳しく、屋根裏部屋でそれをベッドにしたハイジの気持ちが分かるような気になります。嗜好性も高く、ヤギは夢中になって喰いつきます。そういうものを、与えて行けば間違いないでしょう。
チモシーなどの一番草は、茎のところがヤギには固く、食い残しが出ます。押切で短く切って給与することである程度防ぐことができます。近隣に複数の酪農家の方がいれば、それぞれを取り寄せてみて、いちばん適しているものを選んでいけば良いと思います。

<チモシー畑>

反芻動物の栄養の要諦は「ルーメンの微生物を意識する」ことです。
つまり、粗飼料を中心にした食事の構成にすること。あとは極端に偏ったり、急に内容を変化させることを避けることが大事です。
つまり、
・配合飼料をたくさんあげる
・マメ科の植物や穀物、果樹などを消化の良いものを大量に与える
・干し草から生草にいっぺんに切り替える(その逆も)
・葉物などの野菜を大量にあげる
・空地の雑草を無作為に刈り取ってあげる(毒草が混ざる恐れ)
ことはやめましょう。
フンの状態は、消化が健やかかどうかのバロメーターです。緩んだり、水便状態になるのはなんらかの原因でお腹の具合が悪いときです。
ルーメンアシドーシスと言いますが、胃の中が酸性化し、微生物の動きが停滞している証拠なので、粗飼料中心の食事に戻してください。
重曹を溶いて飲ませたり、市販の正露丸やビオフェルミンを朝夕2回飲ませると殆ど治るそうです。一過性でなく続くようなら食事が原因ではなく、寄生虫やウィルスの感染が疑われます。獣医さんの診断を受け、駆虫薬や抗菌剤等を処方してもらう必要があります。
青草の季節になったからといって、乾草をやめ、一気に食事内容を変えてしまうとやはりお腹を壊します。1週間ほどかけて徐々に馴らしていくようにしましょう。

配合飼料は牛用のA飼料が基本です めん羊用とも表示された製品が入手できれば、それで間違いありません
ただ、地域によってはそういうものがない場合もありますので、その場合はヤギに与えてはいけない成分が添加されていないことを製造元に確認の上、ご使用ください
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<マメ科牧草の代表・クローバー>

ヤギの健康を支える食事はとても大事な命題ですが、地域や環境、飼う目的、飼い主の価値観などで千差万別です。
酪農家の方のように栄養をしっかり管理して育てようとするやり方があります。そうではなく、より自然にヤギという動物本来の生態に沿って育てるというやり方もあります。
私は、繁殖して搾乳することを目的として飼っており、そのために必要となる栄養を与えたいと考えています。どちらかと言えば、前者でしょうか。
<乾草>
基本、乾草が主体です。
近所の酪農家の方がつくっている一番草を譲ってもらっています。チモシーなどの牧草を混植したものです。
これを押切で10-20cm程度に短く切り、飽食できるように与えています。
固いところはそれでも食い残します。場合によっては1-2割にもなるでしょうか。もったいない気はしますが、毎日集めてドラム缶で焼きます。放置してカビなどで劣化する方が怖いからです。
このロールの他に、品質の高いプレミアム級のオーツヘイやチモシー、アルファルファなどを取り寄せ、適宜、混食させます。
乾乳期の後半や授乳期は、混食させ、十分栄養をとれるようにしています。
冬季はビタミンAの不足を補うため、ヘイキューブを少量給与しています。
<青草>
5-10月は青草も与えます。私の牧場の放牧エリアは十分な広さがなく、その範囲では物足らないので、この時期も乾草を欠かさず自由に食べられるようにしています。放牧場にはオーチャードグラスとペレニアルグラスを播種して育てています。
この他、牧場外からニセアカシア、イタドリ、クワ、ヤマザクラ、ヨモギなどの野草を採取し、与えていますが、毎日、大量にというわけにはいきませんが、好んで食べてます。
<配合飼料>
乾草や青草といった粗飼料を中心にしつつ、配合飼料も与えています。給与量は「家畜改良センタ長野支場」のマニュアルを参考にしています。
<その他>
農家の方から芋つるや規格外の野菜をいただくこともあります。農薬や肥料の投与の仕方が細かく分かりませんので、おやつ程度にあげています。

可愛さが余ってパンや煎餅などもあげて、コロコロと太ってしまったヤギや、逆に雑草ばかりでガリガリに痩せてしまったヤギなど、程よい食事をとらえることはなかなか難しい課題です。人の都合や偏った考えで決めるのではなく、ヤギのための栄養であることを忘れてはならないと思います。

<家畜改良センタのマニュアル抜粋>

<ヤギたちが青草に群がる光景はやはり最高です>

すべての動物にとって塩は、ナトリウムというミネラルのひとつを摂取するために大切な栄養です。
食塩でも大丈夫ですが、いつもで必要な量を自由に摂ることができるよう「鉱塩」という塩と糖蜜などを混ぜて固形化したものを常設します。5kg*4個入りで、JAで購入しています。
野生の象や鹿、牛などの草食動物は、塩分を含んだ塩泉、沼地にある「塩なめ場」を求めて、平原に群れをなして移動していきます。
未開の土地アメリカ大陸に移住した白人たちは、まず塩を確保するのに、野牛のバッファローの群れの「塩なめ場」の通り道をたどって塩湖や塩泉を発見したといわれます。

ミネラルのひとつにカリウムがあります。
このカリウムとナトリウムをバランス良く摂ることが大事です。
体内の水分バランスをコントロールする役割を持っているからです。
ナトリウムは、細胞の外液に多く含まれ、カリウムは細胞の内液に多く含まれます。
カリウムが不足すると、ナトリウムが水分と一緒に細胞内に入るので、細胞が水ぶくれの状態となり、血管を圧迫し血圧が上がります。
カリウムには、ナトリウムを体外に排泄する働きもあるので、血圧を下げる働きがあると言えます。また、カリウムは、神経系や循環器系の機能にも重要な働きを持っています。
植物に塩を与えるとしおれてしまいます。つまり、ヤギの主食である植物に塩分はほとんどありません。
カリウムは、とくに青草に多く含まれます。青草をたくさん食べる、夏場などはとくに気をつけて補充しましょう。
結構ひんぱんにペロペロ舐め、ときにガリガリ齧って「舐塩」します。

ウェブで検索すると、いろいろ情報が得られます 毒を持っている植物を揚げるときりがないほどです
ヤギは、青草を食べるとき、ひとつひとつ嗅ぎ分けて食べます
毒を持つ草はヤギも分かるらしく、口にすることを避けますので、実際のところはそれほど神経質に考える必要はありません
私の放牧場内にスイセンなどが自生しますが、そのままでも問題になったことはありません
ただ、刈り取った青草をあげる場合、その中に混在したり、繋ぎ飼いのリードの範囲に毒草があったりしますと誤食の可能性があります 刈り取り場や繋留場の毒草を事前にチェックして、抜き取るようにします
常緑の園芸樹木には有毒なものが多くありますので、行動範囲から取り除いておくと安心です また、街路樹や垣根にも有毒な樹木があり、その枝葉がヤギのエサに混入しないように注意しましょう
毒にあたると、元気がなくなり、口から泡を出したり緑色のかたまりを吐き出します 獣医さんに早目に診てもらいましょう
ミルクや卵白、スポーツドリンクを飲ませることが応急処置となります

もうひとつ怖いのが「硝酸体窒素(硝酸塩)中毒」です
冬期間日照の少ない条件で栽培された葉菜類に、窒素肥料を多く与えると根から吸収された硝酸塩が、少ない光合成のためにアミノ酸やたんぱく質に合成し切れず、硝酸塩のまま植物体内に蓄積します ヤギがこれを食べると、硝酸塩の一部が亜硝酸塩になり、赤血球中のヘモグロビンと結合します そうすると酸素を運ぶことができないメトヘモグロビンに変化するために酸欠状態に陥り、死亡することもあります
急性硝酸塩中毒は、ヤギや牛など胃を4つ持つ反すう動物に特徴的な症状と云われます
2016年の冬に、佐賀市内の小学校で飼育していたヤギ3匹が亡くなった事故があります 原因は、餌の野菜くずに含まれていた硝酸塩の体内蓄積による中毒死でした スーパーから譲ってもらった白菜やキャベツばかりを、数日間、大量に与えてしまったようです
葉物の野菜を毎日大量に与えることは避けましょう

落ち葉の季節になりますと、海苔のようにパリパリと好んで食べます。落ちて間もない、新鮮な(?)枯れ葉は好物のひとつです。
枯れ葉、とくに茶褐色のものには、タンニンが含まれています。これが、「抗菌作用」や「殺菌作用」をもたらすようです。
落ち葉や木が倒木すると、川の水質が「ブラックウォーター」になると言われます。タンニンやフミン酸という成分が溶け出すことでつくられます。
このブラックウォーターで飼育している魚の病気や感染症のリスクを大幅に軽減できることでも知られており、熱帯魚飼育でも、マジックリーフなどの枯れ葉を用いたり、水質調整剤で意図的にブラックウォーターを作り出すことがあります。
飼育の基本は「健康」ですから、枯れ葉食いも、この健康維持に役立っているのかも知れません。

私は繁殖には、人工授精を奨めています その理由(わけ)などについては「私のヤギ飼い記」の12項に書きました。そこで、ここでは純粋に技術的なお話しだけさせていただきます。
まず質問への答えは「いえ、難しくはありません 誰でもできますので、是非チャレンジしてください」になります。人工授精の処置だけで言えば、本当に数分で簡単に終わってしまいます。「簡易法」というやり方が開発され、これで随分楽になりました。作業もそうだし、準備する道具なども簡単なものです。
私が発情の季節をどのように迎えるか、からお話ししましょう。
家畜改良センタ長野支場から毎年、ヤギ精液の配布が公募されます。あらかじめ種オスのカタログが公開されるので、どのメスにどのオスの精液を授精させるか検討します。具体的には双方の血統を照合し、近親交配の恐れがないかチェックします。ないものの中から、お好みでマッチングします。ご自分のメスヤギの血統が不明な場合はチェック無用ですが、いずれどのオスにするかを決めておいた方が良いでしょう。
次に精液を取り寄せます。冷蔵扱いでクロネコヤマトが運んできます。賞味期限の短い生もののようなものですから、いつ取り寄せるかが非常に重要です。
ヤギの発情は分かり易いのですが、その正しい見極めが最初の関門です。例えばヤギAに発情が訪れたとしましょう。9月15日としておきましょうか。これを記録します。この最初の発情は見逃します。
発情周期は21日平均。そのとおりだとすれば次は10月6日の筈です。そこに間に合わせるよう精子を手配します。この場合、私は10月5日の着便で手配します。20日周期で発情が来る場合があるからです。
私の精液保管の工夫を披露します。真空断熱2重構造のステンレス製タンブラーに、たっぷり水を含ませたオアシスを隙間なく充填します。オアシスとは、フローラルフォームという花等を長持ちさせるための給水スポンジのことです。あらかじめ冷蔵庫内で3-4℃までタンブラーごと冷やしておきます。精液が届きましたら、試験管ごと、このオアシスに差し込んで保管します。振動と光、温度変化から精液の劣化を防ぎます。この方式を採用してから受胎率は画期的に上昇しました。
予定どおり発情が来ましたら、膣内に精液を注入する、それで人工授精の処置は終わります。必要なものはシース管と注射筒(10ccのシリンジ)、アル綿だけです。処置はヤギ舎の柱にメスヤギをつないで行います。シリンジにシース管を挿入して口にくわえ、アル綿とタンブラーを手にもってそこまで行きます。試験管に入った精液はタンブラーに差し込んだまま運びます。試験管内に水気が入らないように注意してください(急速に劣化します)。
発情は40-48時間続きます。そして、後半の方が受胎する可能性が高いのです。ですから、発情が来たからと焦る必要はまったくありません。朝みつけたら、その日の夕方に1回目、翌朝2回目。3回分が1ロットで届きますが、私はこの2回で行います。受胎率は90%程度(一般的には60%)です。
次の発情日に上手くいったかどうかをチェックします。発情が再来しなければ、無事に受胎したと判断(ノーリターン法と云います)ですし、発情が来てしまったら、また人工授精します。つまり、このタイミングでも精液を取り寄せます。
このチェックの日は、何年経験してもドキドキします。朝、牧場に近づいて、発情特有の騒がしい啼き声が聞こえると、やれやれ駄目だったか、となるわけです。
稀に19日周期で来られると精液の手配が間に合いません。このように発情日の見込み違いは分かり易い失敗の要因ですが、完璧なタイミングで上手くいったと思っても外れることがあります。受胎率を上げたいので、いろいろ分析したいところですが、良く分かりません。生殖は「神秘」なものです。

<人工授精師研修時の実習風景:背中向きで作業しているのが私>

尻尾を握って軽く左右に振って力なくグニャグニャであれば、そろそろ今日あたりかな、という感じです 仙座靱帯が産道を広げるために緩んでくるからと云われています
・尾の付け根がゆるむ(しっぽの横に線が見えてくる)
・乳房が肥大化する
・陰部の腫脹や粘液が出る
・食欲が低下する
・落ち着きなく歩き回る
・腹部が大きく膨らみ下方に移動する
という兆候があります いよいよとなるとは前足で床を掻いてそわそわし出し、やがて陣痛が始まります ヤギの場合、多くは昼の明るい時間帯に出産します 早朝の場合もありますが、夜中の出産は少ない方です
陣痛が始まったらよく観察して陰部から両前足の上に鼻先が見えたら正常分娩です そのまま静かに見守ってもらって大丈夫です 私は顔が半分出てきたくらいのタイミングで介助して引き出します 引き出すと云っても力を込めるのではなく、母ヤギの分娩の力に手を添える程度です 殆どはこの正常分娩です
肢が1本の場合や、鼻先が見えないときは異常体位で難産の危険があります 一度お腹の中に戻して引き出します 余りない事態ですが、ないわけではない
ヤギは陣痛から出産までの時間が比較的かかる動物ですが、最初の陣痛から半日程度経っても分娩がない場合は、かかりつけの獣医さんに連絡するなどして対処した方が良いと思います
産まれましたら、あらかじめ乾いたぼろきれを大量に用意しておき、濡れた赤ちゃんヤギの躯を拭き取って乾かします 母ヤギも一生懸命舐めます 初乳を手搾りして注射筒で静かに100~150ml飲ませると良いでしょう 20分ほどで立ち上がり、母乳を探します 最初の頃は誘導してあげます 虚弱な子ヤギであれば、自力で母乳を吸えるようになるまで注射筒や哺乳瓶で1 日 4~5 回哺乳します 母ヤギは体力を消耗しているので、みそ汁を飲ませます 臍の緒を赤チンなどで消毒します   1-2週間ほどで自然に切れます 臍の緒には、臍動脈と臍静脈(肝臓と胎盤をつなぐ血管)と尿膜管(子牛のオシッコをためるために膀胱と尿膜をつなぐ)の3本の管があります これらの管は、子ヤギが生まれたらすぐにつぶれて「索」という状態になるのですが、なかなか管がつぶれず開いたままになると、ここからバイ菌が入って膀胱炎や腹膜炎を起こす子がいるのです
後産が始まり、胎盤が陰部から出てきて、しばらくぶら下がります 無理に引き出さず、自然の排出を待ちます 落ちた胎盤を母ヤギが食べようとしますが、私は穴を掘って片づけます また、ヤギ舎の床が羊水などでかなり濡れて汚れますので、そのエリアを交換し、乾いて清潔な状態に戻します
これが最初の陣痛が始まって1時間ほどの感動的でありながら慌ただしいドラマです

<無事の出産>

基本的には安産な動物なので、お産の介助が必須なわけではありません
私は立ち会えるときは立ち会い介助するようにしていますが、夜中や極早朝に出産する場合はヤギ任せになります 朝起きてヤギ舎に行ったら、子ヤギが産まれていたということもありますが、殆どは明るい日中のお産になります つまり、お産の8割方には介助しいている、という感じです
介助で行うことは、母ヤギのお手伝いです
・分娩の補助
・赤ちゃんヤギをぼろきれで拭く
・初乳の手伝い
・臍の緒の消毒
・後産の整理
・濡れた床の清掃
・母ヤギに味噌汁をあげる
といったところです。後者の4つは出産に立ち会えなかった場合でも行う項目です
出産時の介助よりも大事なことは「個室に隔離」することです 出産予定日の3日ほど前から昼夜、個室に隔離します。夜は常夜灯をつけます
何故隔離するかと云いますと、分娩を外で迎えさせないためです 外で産み落とすことには様々なリスクがあるので、それを防止したいのです 常夜灯は、母ヤギが赤ん坊を暗闇の中で踏んで怪我をさせたり、圧死させることがないようにするため 生後1週間から10日くらいまでは灯けるようにします
また、子ヤギは産後1週間ほどはこの部屋から外に出さず、母ヤギと一緒に暮らすようにします 歩行がまだ上手ではないので、これも事故防止のためです
出産の予定日を知ることは、こういう意味からも非常に重要です ヤギの妊娠期間は151日間 自然交配であっても、種つけのタイミングは確認するようにしてください
牡ヤギとメスとを同衾させているので、いつの出産が分からない、という飼い主の方が結構いますが、出産時のトラブルが非常に多い印象です ヤギの力を信じるということは放っておくこととは違います
お産に立ち会いますと、いくら「ヤギは安産」と云われようと、母ヤギが命懸けであることが良く分かります 防げる事故は防ぎましょう、少しの心がけで済むのです

<お疲れ味噌汁>

種つけのタイミングで体重30kgを目安にします 3月生まれのザーネンで順調な生育であれば 10月下旬頃、30kg 位に成長する筈です
私は当歳のヤギにも人工授精を施しますが、初年に限っては11月以降の処置とし、遅目に出産させます 小柄な子もいますので、そういう場合は無理をせず、翌秋にします
泌乳量は初産の歳は控え目で、2産目以降で増えていきます その視点からは当歳で出産してもらい、2歳時以降、十分に泌乳して欲しいということになります 丈夫で体躯の優れたヤギになるよう、子育てが大事です

<臨月のヤギさん>

母ヤギが分娩後の数日間出すミルクを初乳と云います。濃厚でやや粘りがあり、病気の感染やアレルギーから赤ちゃんヤギを守る免疫物質が豊富に含まれているため、初乳の給与はとても大切です。
人間の場合も初乳は大切と言われていますが、実は免疫グロブリンの多くは胎盤から受け渡しています。ところがヤギは、胎盤を介した移行ができない動物で、すべて初乳を介して抗体を移行します。ことさら大事なんです。
生まれたての赤ちゃんヤギは母乳に上手く吸いつくことができないので、シリンジで100-150mlほどを飲ませてあげます。20-30分ほどで立ちだし、自力で飲めるようなになります。ただ、数日間はまだ拙く、また多くの量も飲めません。様子を見ながら、場合によっては人工哺乳なども行います。子ヤギが成長すれば吸いが強くなり、飲むコツも覚えます。
母ヤギのおっぱいが張るようなら搾ってあげてください。この搾った初乳を、ミルクの出の悪い母ヤギのために冷凍して保管する方もおります。

<元気おっぱい>

母ヤギはお産の直後、赤ちゃんヤギの世話をする過程でその臭いを覚え、自分の子を自分の子として認知します つまり、この数時間の「過程」がなければ、本当は自分の子であってもそうとは思わず、ミルクをあげません 近づくことも拒絶します
303.項で書いた「個室に隔離」することが大事であることがここでも分かります 外で産み落とす→他のヤギたちが野次馬に押し寄せる→母ヤギは落ち着かず、赤ちゃんヤギの世話に集中できない→自分の子として認知しない、ということです
生後数日であれば、母ヤギのフンやおしっこなどの臭いを子ヤギに擦りつけることで解決できることがあります それでも無理なら人工哺乳に切替えることになります
子育てに不慣れだったり、稀にですが哺育を嫌がる親も居ます 様子をみて、お乳が十分に飲めていないようなら、人工哺乳に切替えましょう
ちなみに母ヤギは赤ちゃんをしょっちゅうなめ回します 口の廻りや躯、お尻など そのときに母ヤギのルーメンに居る微生物が赤ちゃんヤギに移譲されると言われています 子育ての摂理は目に見えるものばかりではないのですね
自分の子に哺乳しない母ヤギは酷いと思われるかも知れません でも、それを招くのは多くの場合「飼い方」なんです

<舐め舐め>

哺乳すること自体よりも、いつ、誰のミルクを、どのようにして、どこであげるか、ということを定めることが大変です 人の手で哺乳したい(しなければならない)、その理由によってさまざまな筈です
1.母ヤギから十分なミルクが採れない
2.母ヤギがおっぱいをあげない(402.項)
3.子ヤギの哺乳が下手なので慣れるまで一時的に哺乳したい
4.子ヤギが虚弱、あるいは他の兄弟姉妹に負けてありつけない
5.親子分離して飼養したい
6.母ヤギのミルクを人間ももらいたい
と云った背景が考えられます
5と6に関しては、子ヤギと親とを物理的に離して飼養する環境が必要です
1-4はその必要はなさそうですが、4.で子ヤギの状態によっては隔離してあげることが良いかも知れません
まず器具を用意します 人工乳首と空の500mlペットボトルです サージミヤサワがヤギ用のプリチャード乳首を扱っています 先端を切って穴を開けます
飲ませるミルクは人工ヤギミルクもありますが、私は搾ったヤギミルクを低温殺菌し、冷蔵保管しているものを40℃強に暖め直してあげます 母ヤギからの哺乳にある程度慣れた子ヤギならば、最初、このゴム乳首の感覚を嫌がると思います お腹がすいているので直に吸いついてきます
人工哺乳で、最も大切なのは衛生的な器具を用いるということと、ミルクの温度管理です 大体という人間の感覚ではなく、必ず温度計を使ってください 「ミルクを飲ませるとふるえが来て調子が悪いんです」という場合はたいてい冬場で、人の感覚でミルクを調乳してすることによります 外気温が低いと、手の温度感覚が狂い、少しミルクの温度が低くても「正しい温度」に感じてしまうのです 寒い日はお風呂が熱く感じるのと同じです
子ヤギの内部体温は39.5℃平均ですから、36℃くらいのミルクでは、体温が奪われてしまいます 第4胃とくっついている腸の温度も低下します 腸内では善玉菌は高温に強く、悪玉菌は低温に強いのです 腸が冷えて低温に強い悪玉菌の方が優勢になります すると消化不良や胃腸炎を起こし、元気も食欲もなくなってしまいます
哺乳する1回あたりの量や日の回数は家畜改良センタ長野支場のデータを参考にしています
4の場合は、虚弱な子を親に預けて、強い子を(例えば夜だけ)分離する手もあります 6のケースでも分離するのは夜だけで、朝に搾乳することが考えられます 
人工哺乳が必要になったとき、どのような手順でやっていけば良いのか、あらかじめ想像しておいてください

<哺乳量や回数の目安>

<人工哺乳風景>

母ヤギは大量の血液を生みだし、それをミルクに変えています 泌乳はヤギにとってみれば、出産を契機にして急に始まります そのときに乳腺内の一部の毛細血管が破れてしまい、血乳が生じることがあります 泌乳の初期に見られることが多いのですが、軽度であれば、特に処置をしなくとも3~10 日で回復します 鮮紅色の血液が混じるときは止血剤やビタミンKの投与が必要になります 乳房炎の併発も考えられるようなら獣医さんに相談してください
乳房炎乳でなければ子ヤギへの哺乳はできます

<搾乳教室>

心あるヤギ飼いさんには誰しも悩ましい課題です ヤギの角は自分を守るためにあるものだから除角はしないという考えの方もいます
ただ、角は事故や怪我のもとにもなるので、除角したヤギの方が圧倒的に飼い易くなります
私は生後1週間を目処にしてすべての子ヤギに処置します 牛用のデホーナーという器具と数種類の大きさの六角レンチ、七輪を使い、角芽を焼き切るという方法です 小道具としてマジック、はさみ、あとは動物用赤チンも必要です
いくつかコツもありますので、文字で表現しようとすると回りくどくなります 私が敬愛する愛知ヤギ牧場の門田さんが、この除角の模様を動画にアップしていますので、参考にしてください

牡ヤギは角芽の勢いが強く大きいので、様子次第で生後3-4日で早めに処置することもあります 角芽が完全に除去されないと変形した角が生えてきます 数週間、観察して再度除角することもあります
私は除角にあたっては獣医の方の協力を得て、全身麻酔をかけて処置します 費用はかかりますが、ヤギ、人間、お互いの精神の安寧のためです
除角瘡はやがて癒えて消えます 処置後2ヶ月程度で毛で覆われて分からなくなります

<除角してもすぐに元気になります>

種オスとして残すことが決まっているもの以外はもれなく去勢することをお奨めします
本来、ヤギの魅力は牡ヤギにこそ、凝縮していると思うのですが、それとその強靱な体躯の牡ヤギを「飼う」ということは別問題です 発情期の臭いを含めて、なかなか大変なのです
去勢の方法は外科手術などいくつかありますが、私はリング法によっています 使用するのはイラストレータ、そしてそれに附属するゴムリングです イラストレーターは、本来、羊の断尾用の器具ですが、これを活用します
やり方は簡単で、生後1ヶ月を目処に睾丸の付け根をイラストレーターでゴムリングでくくるだけです 睾丸が2個,リングでしめられているか確認をします 60日ほどをかけて壊死 自然落下します
簡単なやり方ですが、子ヤギには数日間ストレスを与えます 
去勢した牡ヤギはペニスが成長しないので、尿道が十分に発達せず、尿路結石のリスクが高くなります 尿路結石とは、尿中に含まれる微小な結石が細い尿道に詰まってしまう病気です 
その予防のため食用のクエン酸をスーパーなどで求め、餌に少量振りかけています クエン酸はシュウ酸とカルシウムが尿中で結合するのを抑え、結石の形成を抑制する作用があると云われています

<リング法による去勢>

産まれて間もない赤ちゃんヤギは母ヤギのおっぱいを飲むことに不慣れなので、飲みやすい方の乳房からしか飲まない(飲めない)ことがあります 吸う力が弱いため柔らかい乳房に吸いつきます
残る片方の乳房がパンパンに張れる場合は搾って柔らかくしてあげてください
成長とともに上手になりますので、直に両方の乳房から飲めるようになります

<かつての農村ではヤギの乳搾りは子どもたちの仕事でした>

最初の搾乳時のヤギの反応は、そのヤギがどれだけ人に馴致しているかによりますが、相当、懐いている場合でも乳房はデリケートなので、触られるのを嫌がるものです 私のところは、母ヤギ中心の子育てですから人工哺乳のように懐いてるわけではありません そこで、一週間ほどは「格闘」の気構えで臨みます
保定しても、ヤギは嫌がって暴れます ジタバタした足がバケツに入ったりもします それでも抑え込むようにして搾乳します この間、ミルクは使いものになりません
そうこうと一週間もするとヤギは搾られることに慣れてきます 乳房の張れはなくなるし、搾乳が終われば食事にありつける、そういうことを覚えてきます
人工哺乳のように懐いてるわけではないとは言え、信頼関係はできています ですから、足をあげてバケツに突っ込むような場合はりつけます 叱ることは怯えさせることではありません やがて足をあげることはなくなります
足を縛って搾乳する方もいらっしゃいますが、躾次第でその必要がなくなります ただ虫などが飛んできて、反射的に足をあげるのはその限りでありません 反射行動なので、そういうときに叱ったりしてはいけません
賢い動物なので一度覚えたことは忘れません この格闘も初産のときだけで、2年目以降は素直に搾らせてくれます 搾乳の順番を決めれば、その順番どおりに並びます ここまでくればしめたもんです
暴れてミルクを搾らせてくれないからと諦めないで、ヤギと対峙してみてください
もし人から触られることも嫌がるヤギであれば、触られ慣れから始めると良いでしょう

<良くできました>

離乳食などに手をかけず、母ヤギに子育てを預けても相応に子ヤギは育ちます ただ、体型の良い優秀なヤギに育てたいなら、分娩前(いわゆる乾乳後期)の母ヤギへの栄養に加え、生後3ヶ月齢までの過ごし方が非常に大事になります
生後4日目ほどから遊び喰いし出しますので、スターター(人工乳とも言われます、代用乳ではありません)と言われる飼料や短く裁断したプレミアム乾草を与え始めます 食べることよりまずは口にくわえて慣れることから始めます 直に母乳の他にこのような飼料や青草も食べ出しますので、徐々に増やしていきます スターターに親ヤギの配合飼料も混ぜて、その率を徐々に増やし、70日齢頃には完全に切替えます  
自然哺乳の場合、母乳を飲んでいる間は、なかなかスタータ-の食い込みが上がりません 出来れば親子分離し、日に2回親につけてあげましょう 母ヤギの餌箱にスターターを入れておくと、子ヤギは母ヤギが食べるものを信頼しますから、スターターの食いつきがよくなります
3ヶ月まではルーメンを育てる大事な時期なので、良質なプレミアム乾草を与え続けますが、これも2ヶ月を過ぎた頃には徐々に親と同じ乾草に切替えていきます ただし、品質の劣る乾草は第四胃から十二指腸にかけて未消化のまま滞留しやすく食滞が起きますので注意してください
こうして3ヶ月齢後半位になると親と同じ食事になります 食べたもののうち、繊維とデンプンはルーメンで発酵消化して3種類の酸(VFA:揮発性脂肪酸という酢酸、プロピオン酸、絡酸)になります これらの酸がヤギのエネルギー源になるのです この酸を吸収するのがルーメンの「粘膜絨毛」です つまり、健康な粘膜絨毛がなければ、吸収が悪くてエネルギーに変えられないだけでなく、ルーメンに酸が溜まり続けて胃酸過多になってしまいます 「ルーメンアシドーシス」といわれるもので、代謝病の大きな原因となります
スターターなどの離乳食を適切に与えると、この粘膜絨毛がしっかり育ってくれます 後々のヤギの発育や健康にも大きく貢献してくれるのです
さて、ここまでで現実問題として大事なことは、これらの離乳食をどうやって子ヤギだけに与えるか、つまり親ヤギが食べられないようにするか、ということです 親ヤギの前でこのような飼料を出せば、子ヤギがありつく前に、瞬く間に食べられてしまいます 一時的なものであっても親子分離の環境をつくる必要があります
どうやって、どのようにして子ヤギを育てたいのか、育てられるのか、あらかじめのシミュレーションが重要です

<子ヤギへの栄養給与量-家畜改良センタ長野支場出典->

<個室を改良して、子育ての期間だけ子ども部屋にします>

私は自然哺育中心で、一部に親子分離を含めているという感じで育てています 理由は単純 親子を完全に分離して哺育するだけの物理的な環境がないからということ、そして経営するレストランが開店している時間帯はどうしてもヤギたちに手をかけられないからです
正解はないので、なにを大事にして育てたいか、どういう環境や飼養の条件なのかによって決めれば良いと思います 親子分離哺育の方が管理的と云いますか、酪農家の方は大体このやり方です 産業性を重視し、大規模化も図れる方式です ヤギを個人で飼っておられる方はまずまず自然哺育でしょう
自然哺育はお母さんの飼養管理がよければ、子ヤギの発育では有利な面も多く、管理も楽です しかし、母ヤギの状態が悪いと、母乳の異常によって子ヤギが下痢を起こすことも多く、母ヤギの発情回帰や離乳のさせ易さも親子分離哺育には及びません なによりもヤギが人に馴致するのが人工哺育の魅力でしょう ただ、哺育する人間側に正しい知識とそれをきちんと遂行する力がないと、飲乳量が少なかったり、下痢や軟便になるなど、様々なトラブルが発生します
① 親子分離哺育(人工哺乳)のメリット
・母ヤギによる乳量格差がないので子ヤギの発育が一定になる(斉一性が高まる)
・子ヤギのルーメンの発達が早まり、飼料摂取も活発になる
・人間に馴致する(扱い易いヤギになる)
② デメリット
・哺乳のための朝夕の作業が増える
・代用乳やスターターの経費がかかる
・子ヤギ管理用に別のスペースが必要になる
・哺育側に知識や経験が必要になる
私は生後1-2週間を目処として、夜間だけの親子分離を行っています 朝は人工哺乳を行います また、専用の子育て部屋を設け、そこには親ヤギは侵入できないよう工夫しています 離乳時のスターターやプレミアム乾草はこの子育て部屋で給与するので、子ヤギが母ヤギに遠慮することなく食べられるわけです
いいとこどりのようであり、中途半端でもあり、是非みなさまもいろいろ試してみてください

<プレミアムチモシー>

ZOJIRUSHIの業務用マイコンクックジャーを使い65℃30分で低温殺菌しています 低温殺菌用の機械で牛乳用などのものは仕様も価格も大袈裟なので手の届くもので行っています ジャーには乾式と湿式のふたつの方式がありますが、こちらは乾式です
搾乳したミルクは、搾乳後数分の内に厨房に持ち込み、色合いなどをチェックした上で、漉器を経由してこのジャーの容器に移されます 大事なのは「攪拌」 殺菌中は木の棒でくまなくかき回します 30分経ったら、容器ごと氷水につけて冷却します 細菌が好きな25~37℃という温度を速やかにくぐり抜けるためです 冷却が終わったら、冷蔵するものはガラス容器に漉器経由で移して冷蔵し、冷凍するものは180mlのPEボトルに入れて、すぐ冷凍庫に入れます
搾乳を終えてから冷蔵庫などで保管するまで、賞味1時間半程度でしょうか 素早く処置することが衛生管理上、大事だと考えています
ミルクの成分や細菌などの検査をサンプル的に外部委託して行っており、すべて正常値です ただ、これらの機材レベルでは食品衛生管理法の乳等省令はクリアできません 残念ながら、人用の販売は行っていません

<低温殺菌のスープジャー>

日本では生産量が少なく、ほぼ流通していませんが、ヤギのミルクには牛乳にない魅力があります ちょっと魔法
ヤギのミルクの脂肪球は牛乳の6分の1と小さく、消化しやすいのが大きな特徴です
そのために下痢や便秘になりにくいと言われています
また低アレルギー食品です 「αS1-カゼイン」という、牛乳アレルギーの主原因となるたんぱく質が人の母乳とヤギのミルクにはほぼ含まれていません 一部のネット情報等で、このことをもって非アレルギー食材ととらえられるような表現も散見されますが、「β-ラクトグロブリン」というタンパク質がヤギミルクにも存在するので、そうは言い切れません 感覚的な言い方ですが、牛乳に強く反応するお子さんなどは、ヤギミルクにも反応がみられるようです アナフィラキシーなど牛乳に強いアレルギーをお持ちの方がお試しの場合は専門医の立ち会いが求められます
牛乳を飲むと、お腹がゴロゴロする方がいらっしゃいます 発疹やかぶれ、吐き気など反応を併発しない場合、これは牛乳アレルギーではなく、ほとんどが「乳糖不耐症」です ラクトースという乳糖を分解できず、消化不良や下痢を起こしてしまうのです イヌネコも乳糖不耐症(特に大人になると)です ですから、ペット用のミルクは山羊乳なんです
ヤギミルクには
・牛乳に比べて、ラクトースが小さくて、少ない
・脂肪の成分(脂肪球)が牛乳より小さい
・含硫アミノ酸が多く含まれ消化を助ける
という特徴があります
鉄分の吸収率をあげるアラキドン酸が多く含まれることも、牛乳にはない特徴です
牧草を食べて育つ牛と違い、草以外の樹木の皮など、さまざまな植物を餌にすることから、豊富な栄養を持つミルクが産まれるのです
これだけ効用のあるヤギミルクですが、「癖が強く臭みがある」という残念な評価が定番です ヤギの飼養、搾乳、の環境や餌の質、殺菌の処理の仕方によって、それはまったくといって良い程、なくなります 私の牧場のヤギたちのミルクはとても美味しく、レストランで試飲されますと、みなさん、びっくりされています

<とても美味しい自慢のミルクです>

羅列します レシピなどが欲しい方は個別にお問合せください
<料理>
・チーズ
・ヨーグルト
・ポタージュ
・ヤギのミルクパン
・ミルクジャム
・ヤギミルクのパスタ
<ドルチェ>
・プリン
・ババロア
・アイスクリーム
その他、搾乳シーズンは牛乳を仕入れませんので、ミルクを使う調理にはすべてヤギミルクを利用しています
脂肪球が小さいので遠心分離による生クリームの精製が難しく、クリーム物は通年で牛さんのものです いつか挑戦してみたいです

<ヤギのミルクプリン ヤギミルクと比内地鶏のたまごと砂糖だけでつくります>

できます 冷凍の容器や仕方に工夫してください
ミルクの冷凍には「分離」の問題があります 分離は、「水分」と「脂肪分」の氷点が異なるため、冷凍時に起こってしまう現象です 融点も異なるため、解凍の仕方次第でその度合いが強くなります ゆっくり冷凍し、ゆっくり解凍するほど、分離が進みます。
ヤギ乳は、牛乳に比較すると脂肪球が1/6と小さいため、牛乳ほどの影響はでませんが、いずれ分離は生じます 分離が起こると、飲み口にざらつき感があり、風味がなくなってしまいます 
この分離を最小限に抑えるためには、容器を小さなものとして素早く冷凍することです ZIPLOCに薄い板状にして冷凍し、使用のときはそれをペキペキ割って必要な分だけ解凍するやり方があります ペット用に販売しているものは衛生管理上、180mlのPEボトルにしています 私は力の強い業務用の冷凍庫を利用していますが、これ以上に大きな容器ですと、急速な冷凍が効かないので分離が起きます
解凍は、冷蔵庫による自然解凍でも、冷水(氷水)による解凍でも大丈夫です
※常温による解凍は衛生管理上、行わないでください 冷水解凍の場合は、大きめのボールに冷水は張り、冷凍ミルクを容器ごと沈めるようにして解凍ください
黄ばみが気になるという方がいますが、冷凍した際に黄ばんでみえるのは正常です 解凍すると戻ります 黄ばみは脂肪の色です 通常は、脂肪球が水の中に漂っている(コロイド状)ので、光を乱反射して真っ白に見えます 冷凍すると固まりになってしまうため、乳脂肪本来の色が出てしまうのです ご安心ください
冷凍したミルクは、冷蔵モノに比べると風味は若干落ちますが、3ヶ月は十分保存可能です 加工する場合は1年くらいは大丈夫なようです
なお、ヤギミルク100mlあたりのエネルギー量は71kcal(㈶畜産技術教会)で、牛乳とほぼ同等です

<180mlのPEボトル 乳等省令Ⅰ類に対応している製品>

「血乳」と云われるもので、人の母乳でも見られることです 病気ではありません
血乳は産後1週間くらいの間に数日間出ることがあります 夏過ぎくらいに再発することもあります 浮腫や乳房の中の損傷が原因とされています
牛とヤギとでは、お乳を分泌するメカニズムが異なります 牛はメロクラインと呼ばれる乳腺上皮細胞が壊れない分泌様式であるのに対して、ヤギはアポクラインと呼ばれる乳腺上皮とともに乳が分泌される、つまり乳汁中に体細胞が入り込みやすい分泌様式である、と言われています そのためか、血乳の割合も高い傾向にあるようです
ビタミンKの投与で止まることがありますが、いずれ数日間でおさまります そのまま搾乳を続けてください
血乳を赤ちゃんヤギが飲んでも危険はありません 普通に授乳して大丈夫です 人用などで搾乳している場合、色が気になるようなら廃棄してください
血乳が1週間以上も続く場合は、他の病気が潜んでいるかも知れません 獣医の方に相談してください

<私は手搾り派です>

健康管理の章に入るにあたって申し上げます 「寄生虫」や「重大な疾病」の各項においてひとおおりの知識を披露しますが、私自身はこれらの疾病に見舞われたことがありません 偉そうな言い方に聞こえるかも知れませんし、単に運が良いだけなのかも知れませんが、もう10年以上も健常な状態を持続していますので、なんらかの「必然」があるのだと感じています
「衛生と栄養と運動」に気をつけ、「良く観察して」ください。

観察の基本としては「入るものと出るものが健全なら大丈夫」ということです
つまり、食欲があってフンの状態が良ければまず大丈夫です
あとは
・毛の艶や耳の垂れ、よだれ、目あかなどでしょんぼりした様子はないか
・機嫌良く反芻しているか
・鼻先が濡れているか
・触ってみて体温は正常か
・変に脱毛していないか
・歩き方や動作が変ではないか
といったところになります いつもとは様子が変だと気にかかることがあれば、獣医に相談するか、軽易そうなものなら記録して様子を見ましょう
観察とは、このようなチェックポイントをひとつひとつチェックしていくのではなく、なんとなく変だな、という勘が働くことが大切です あれ、なにか変だな、なんだろうという勘が最初にあって、じっくりひとつひとつを観察する、という感じです その結果で、少し様子をみよう、となったり、その場で獣医に電話することもあります

宮古島で獣医をされていた寺島杏奈さんが「ヤギの診療」という本を出版しています 実践的で分かり易く症状や病院、治療法、飼い主になにができるかということが書かれています 手にとってみてはいかがでしょうか

<ヤギの生理に関する基礎データ>

つないでいるロープや首輪に首が締まっている状態になっていませんか
顔面浮腫と云います。
首には、全身を流れて心臓に帰ってくる「頸静脈」という太い血管と、心臓から全身に血液を送る出す「頸動脈」という血管があります 「頸静脈」の血管が圧迫されると顔に血管から漏れ出した水分が溜まりむくみます ロープを解いたり、首輪を緩めたりしてください 半日程度で回復する筈です
秋寒くなると、ヤギは全身に脂肪をまとって冬仕度し始めます そのとき首廻りも随分太くなります また成長期の子ヤギの首元も見逃しがちです 病気というわけではありませんが、ご注意を

<新しい首輪>

駆虫に関しては、各牧場の環境や規模、考え方によって対応に違いがあります 従って、以下は、私の牧場のケースということでご了解ください 一番良いのは、家畜保健所の防疫担当の専門家に牧場の実情を伝え、どのような内部寄生虫対策が望ましいのか、相談してみることです 私はそのようにし、結果、駆虫を行っていません

一般的に、「ヤギを正しく飼う=駆虫する=安全安心」という風に想いがちですが、それは違います 駆虫は、しないで済むならそれに越したことはないのです 内部寄生虫の病状を発生させてしまう事態を招くよりは駆虫した方が良いという考えもあるし、オーシストなどは目に見えないので、人は薬を使うことで安心を得ようとします しかし、自然の摂理や病理はそんなに単純なものでありません

現在、下痢などの症状があって内部寄生虫の害の恐れが高いので駆虫しようとしているのか、健康な状態で予防のために駆虫しようとしているのか
前者であれば、まずは糞便検査を行い、ヤギの体内の状態、つまりどういう寄生虫にどれだけ侵されているかを検査し、客観的な事実を掴んでください その上でその症状に応じた駆虫を行います これはもう病変が生じている状態ですから、治療し、駆除しなければなりません 具体的には獣医さんと相談してください
後者は意見が分かれます 駆虫剤の乱用は避けるべきですが、必要と判断されるなら処方する、という玉虫色の言い方になります
内部寄生虫に宿られ易い環境や飼い方であれば、また、ある特定の個体の症状が全頭に広がることはなんとしても避けたい、ということであれば駆虫した方が良い そうでなければ、ヤギにとって好ましくないだけでなく、寄生虫が薬剤への対抗性をつけることにもつながるのでしない方が良い、ということです
私はエプリネックストピカルという駆虫剤を、蚊が少なくなる時期、秋に1度だけ使用します 牛に寄生した指状糸状虫が蚊を媒介して感染し腰麻痺という病気をもたらすものです 私の牧場に直近の牛牧場は10kmほども離れていますが、蚊の飛来が絶対にないとは言い切れないという念のための処置で、乱用を避けるため年に1度のみにしています ただこの指状糸状虫は、他の内部寄生虫と感染ルートが異なり、つまり駆虫への考え方もまったく違いますので、理解の混乱を避け得るため、ここではこれ以上のことを割愛します(FAQ604をご覧ください)

まずは寄生虫の生態や感染経路のことなどを勉強しましょう
1. 条虫、線虫、回虫、捻転胃虫、コクシジウムなどの寄生虫は、すべて自然界に常在している生き物です 土中に卵や幼虫がいて、野生動物などに寄宿して生き延びています この卵などが草に付着したり、幼虫が草叢の葉をよじのぼり、放牧したヤギの採草とともに経口して躯の中に入り、感染します ヤギの体内で成虫化すると卵を産み、これが糞とともに排出され、また草叢に入り、これを他のヤギが食べると感染が広がります 寄生虫の活動は草叢が湿っている状態で活発化します つまり朝露の時間や雨後、じっとりした時期など 普段、青草を良く食べ、またその採草地に雨後など、いつでもヤギが入り込めるような環境では寄生のリスクが高まると云えます 多頭飼いの場合もリスクは高まります
大事なことは、自然界に常在しているものなので、健康にみえるヤギの体内にも大なり小なり存在している可能性が高い、ということです 
それでは何故発症するものとそうでない健常なものとが違いが出るのでしょうか 
ひとつは汚染の程度 たくさんの寄生虫が体内に入れば、発症の恐れは高まります 衛生の程度が悪い環境ではすべてのヤギが罹ってしまう、ということもあります
たとえ、割合少ない寄生虫であったとしても、ヤギの体力が落ち、免疫がない状態では発症してしまいます つまり、同じように飼っていても罹るものと罹らないものがいるわけです
2. 駆虫剤の効果を正しく知りましょう 駆虫剤によって駆虫されるのは、そのときに体内にいる寄生虫です その後、体内に入り込んだ寄生虫には効きません 体内にある卵や子虫を早めに駆除し、成虫になって悪さを働くのを防ぐという意味合いで予防と云えますが、抗体を作って寄生虫を防いでいく、というような予防効果はありません インフルエンザや新型コロナなどのウィルスの予防注射を打つこととの違いを理解してください
そのため駆虫は定期的に繰り返すことが必要です しかし、そうすると薬に対する抵抗性を帯びる寄生虫に変異していくため、薬が効かなくなってしまうという悪循環が生じます
3.駆虫の仕方についても注意が必要
駆虫剤を飲ませると体内にいる寄生虫の卵などが糞とともに排出されますが、これが放牧地で生き延びて、かえって寄生虫を蔓延させてしまうことがあります つまり、駆虫後2-3日は舎内飼いし、敷料などは廃棄、若しくは殺菌することが大事になります
4.糞便検査によって寄生虫にどれだけ侵されているかを検査する手立てはありますが、健康な状態の糞便からは検出できないことが殆どです
ただ、糞便検査は寄生中の有無だけに行われるものではなく、潜んでいる疾患がみつかる場合もあります 人の健康診断同様、健康体であることを確認し、安心する意味合いを含めて、定期的に行いましょう
寄生虫の診断が出た場合は、その種類と卵の数が分かるので、この結果に基づいて駆虫プログラムを組み立てます
これには獣医の協力が必要になります

私の牧場は小規模である利点を活かして、衛生管理と個体ごとの栄養・運動・ノーストレスを徹底しています パドックの土壌は砂地が剥き出しになっており、砂地ですから水はけが良く乾燥状態が保たれます パドックに隣接して採草地がありますが、広大ではなく、乾草主体の飼い方です また、この採草地には扉を設けており、雨後など、湿った状態では開放しません 寄生虫が誰かに宿っても毎朝夕に糞を除去しているので、感染が広がることはありません このようにして、薬剤に頼らないこと、つまりは駆虫しないことを続けています そして、長年、問題も生じていません
なお、敷料を交換し、床底を洗浄した後の消毒は、逆性せっけん(パコマなど)ではなく、オルソ剤の方が効果があります トライキルという製品があります 私は、ヤギ小屋に落ちた糞は朝夕に除去しますが、敷料は2週間、長くて1ヶ月ごとに全交換します 流水で洗浄・乾燥した後に200倍に希釈したトライキルを噴霧し、新しいモミガラを敷きます トライキルは使用後、強い刺激臭の残留が1週間ほど続きます しばらく換気に留意しましょう 冬場は土地柄、洗浄・乾燥の工程を省き、またヤギ小屋にいつもヤギが居て空けることができなくなるため、消毒もできないことがあります 小屋への在住率が高いので、汚れ度合いも冬の方がよろしくない状態です 低温で細菌の増殖が抑えられるであろうことが救いです その分、頻繁な交換を心がけています

<エプリネックストピカル>

腰麻痺は、牛の腹腔に寄生している指状糸状虫が蚊を媒介して、ヤギに感染し、体内を移動するうちに、神経組織を損傷する寄生虫の病気です 牛は腹腔内に移動して病害が出ることはありませんが、ヤギでは子虫が脳脊髄神経に迷い込み、神経細胞を刺激したり、破壊することによって運動障害などを引き起こします シバヤギやトカラヤギには問題が少ないようですが、ザーネンなどヨーロッパ系の品種に多く発症します
症状としては、
・腰部・後肢の麻痺
・歩様のふらつき
・起立困難
・斜頸(頭頸部が片方に傾く)
・顔面神経麻痺によるよだれ、ごはんが食べられなくなる
・前肢の麻痺
があげられます
症状が出たら、速やかに駆虫剤の投与を行い、抗生物質や炎症を抑える薬、点滴などを行っていきます 素人療法は控え、獣医に相談しましょう
イベルメクチン系の製剤が予防や治療に使われます 私はエピリネックストピカルというエプリノメクチン製剤を使っています ミルクの出荷制限ゼロで搾乳中のヤギに駆虫ができる製品です 体重10kgあたりに1mlを、背線部のき甲から尾根にかけて直線的に注ぐだけです
私は、他の内部寄生虫の駆虫は行いませんが、指状糸状虫は年に1度予防しています 蚊は風にのって2-3km飛びますので、近くに牛舎がある環境では、蚊の居る時期は15日置きに投与することが良いとされています 私が敢えて年1度のみの投与に抑えている理由は、近傍に牛舎がないことと薬への対抗性を高めたくないためです

<指状糸状虫の感染経路>

鼓脹(腸)症は怖い病気で死に至ることもあります その多くは給与した餌や誤食による飼養上の失敗です 防げる病気なので、まずは発生させないことが大事です
一度に大量のマメ科の植物や穀物類など、発酵しやすいものを食べるとルーメン内でガスが急激に産生され、げっぷなどでの排出が間に合わず、お腹がぱんぱんに膨らみ、起立不能にまでなる病気です このとき聴打診という方法でお腹の聴診をすると、金属をたたいたときの音が聞こえるそうです ルーメンの鼓腸なので左側のお腹が膨らみます 右側まで膨らんでしまうとたいへん危険が状態です
民間療法として、食用油を飲ませたり、猿ぐつわをさせてガスを抜く方法があります 重度の場合は獣医による診療が必要です ホースを口から挿入してガスや胃の内容物を排出するとともに、胃薬を投与します もし獣医師がいない、間に合わないなどの場合は、ご自分でホースを使って胃内のガスを抜く必要もあります
https://vet-present.com/goat/1522/
消化の良い穀物やパンなどの加工品をヤギは喜んで食べます 喜ぶからと言って多給すると誇脹症を引き起こします 注意しましょう

<豆科植物の多給は要注意>

細菌が乳房内に入り込み炎症を起こす病気です 多くの場合、不衛生または乳房の外傷によって引き起こされます 乳房炎の発生が疑われたら、すぐに獣医師に診てもらい、その指示に従ってください
症状として、乳房が腫れて熱を持ちます またお乳が薄くなったり、ブツブツとした塊が出たり、クリーム状になるなどの変化がみられます 軽い場合は搾乳して、翌日には回復することもありますが、元気や食欲がなくなり、発熱・起立不能などがあらわれて、乳房の壊死や死亡まで至ることもあります 
治療は乳房の洗浄や抗生物質の投与になりますが、獣医の指示を受けながら頻回に搾乳することが大事です 乳房の中は温かく、ミルクという栄養もあるので細菌が培養器にあるように増殖してしまうからです また、乳房炎の母ヤギのお乳は子ヤギに与えないで人工哺乳をする必要があります
感染の拡大を防ぐために隔離することが必要な場合もあります
ヤギの居住空間や搾乳環境を清潔に保ち、正しい手順で搾乳することが求められます 乳房炎の発生プロセスはかなり複雑だし、牧場という細菌の温床のような環境と細菌に冒されやすいミルクが共存するというリスクを自覚することが大事だと思います

<乳口から細菌が侵入>

コクシジウム症という怖い病気があります Eimeria属の腸内寄生虫の経口感染による感染症で、免疫システムが出来ていない子ヤギが発症すると、下痢、血便を起こして死に至る場合もあります(成体ヤギはあまり症状を見せないようです) 実は、コクシジウムはヤギの腸管にかなりの確率で常在しています また、オーシスト(コクシジウムの卵)も環境内に感染性を保って潜んでいるので、侵入を防いだり、環境を清浄化するのはほぼ不可能です つまり、この寄生虫は事前に駆虫できるものではなく「発症させない」ことを目指すことになります
コクシジウム症は、それまでヤギを飼っていなかった場所で、少数頭を飼うのであれば、発症の危険はまずありません ただし、外部からヤギを導入する場合は注意が必要です
また、過密な飼育環境や汚れて湿ったフン、不衛生によって増殖したコクシジウムが体内に侵入すると発症します 大事なことは畜舎を清潔に保つことです 畜舎を掃除することによってコクシジウムの増殖を防ぐことができます 症状はコクシジウムの量に比例します コクシジウムが口に入る量を減らすことで改善されるのです
発症をみつけたら速やかに獣医に連絡して治療してもらいます 下痢便はなるだけ小まめに処分して、環境中にコクシジウムのオーシストが蓄積しないように心がけます 発症しているヤギと同居している子ヤギにも薬を投与すると良いと思います
過去にコクシジウムの発症がある場合は、繁殖前に母ヤギの感染を確認し、感染している場合はサルファ剤を投与して治療しておきましょう

<コクシジウムは経口感染>

ヤギの食欲がない場合の原因のひとつに考えられるのが異物の誤飲です
急にものを食べなくなってお腹が張ります ポリ袋、紙袋、ビニールひも等を食べて、胃から腸へのどこかで詰まってガスが発生する状態です 反芻動物の消化器官は複雑なので、手当てのしようもなく数日で死んでしまうことが多いようです
紙を食べさせてはいけません その多くは有害物質を含む化学合成物質であり、胃の中で消化されません ふれあい動物の現場で最も危険なのは、この異物摂取だと云います
ヤギの行動範囲の中に、こういう危険が潜んでいないか、あらためてチェックしてみてください

<ヤギの消化システムは巧妙かつ複雑です>

ヤギを飼うと行政機関に届け出る義務が生じます 飼養安全責任者を定め、年に1度、報告物の提出を求められます その背景については「私のヤギ飼い記」6項のとおりです 
その内容は、6頭未満か、以上かによって異なります 数頭の小規模飼いの場合は簡易なものになります
大袈裟に感じるでしょうが、ヤギは、最悪、法定伝染病などの影響を受ける家畜です おつきあいください

<ガイドブックから>

私は、血統管理をきちんと行っております ブランド志向だからではありません イヌやネコの純血統種とは意味合いが異なりますが、それは「私のヤギ飼い記」12項に書きます ここでは血統登録の事務手続きのことを説明します
血統登録できるヤギは、日本では日本ザーネン種のみです アルパイン種やシバヤギなどには制度がありません そもそも今の日本に純血のアルパイン種はいないのではないかと想います 父・母ともに血統登録されていれば、問題なく産子登録できます 父・母のいずれかが本当は純血なのに登録されていない場合は、残念ながらその子は産子登録を受けられません そういう場合に備え、基礎登録という制度があるようです 詳しくは窓口にお問合せください
血統登録の窓口は、各都道府県の畜産技術協会になります 私の住む秋田には県支部がないため、「公益社団法人・畜産技術協会」に直接申請します
産子登録と本登録がありますが、私は産子登録のみ行っています 基本的なルールは、離乳前の生後2ヶ月まで行うことになっています 実際には生後2ヶ月以降6ヶ月まで受付けてくれます 
申請書に人工授精証明書や写真(正面、上面、左側面、右側面、背面、頭頂部、生殖部)を添付して電子申請しますと、ほどなく登録書と耳標、請求書が送られてきます 所定の金額を振り込んで手続き完了です
耳標(タグ)は、タガーという器材をアルコール消毒して使い、左耳に打ちつけます
その瞬間、ヤギは痛がってのけぞりますので、ひとりが抱きかかえ、ふたりがかりで行うと良いでしょう 小頭飼いで個別管理が十分可能な場合は、装着しなくても良いと思います 耳標の装着がないヤギは、公的に血統ヤギとは認められないでしょうが、私もつけていません その理由は、「私のヤギ飼い記」12項を読んでいただくと察しがつくと思います
いずれ血統登録されているとヤギの出自は明らかになります 登録されることをお奨めします

<ヤギの血統登録>

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