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農園リストランテ

12.人工授精と除角と去勢のすすめ

「どうせならオスとメスを飼ってミルクもとりたい」という、この「どうせなら」は危険です、と言いましたが、ヤギを飼う大きな魅力のひとつはやはり「子ヤギをとって、ミルクを搾る」ことにあります。「そこに挑戦したい」という方に薦めるのが、人工授精による繁殖です。
そして、産まれた子ヤギを除角すること、更にオスであれば去勢する、ということです。
オスとメスを夫婦飼いし、自然なままに赤ちゃんが産まれ、・・・ということは、非常に耳障りが良いがしかし、out of control。やがて収拾がつかなくなる恐れがあります。
ミルクをとることは、繁殖させることであり、それは「産み出されたヤギを飼う」だけの立場から「新たなヤギを産み出す」側に廻るということです。重さが全然違います。

ヤギはそもそも一夫一婦制の動物ではなく、ハーレムを為すものです。一頭のオスがメスの群れに君臨します。淋しいだろうからと人間の自己満足で、種オスまで飼うことはいろいろな意味で負荷がかかります。牡ヤギは力が強く、身体も大きい、発情期の臭いも強烈です。小頭飼いで繁殖を目指す方は、是非、人工授精を選択してください。
次の利点があります。
・計画的に出産できる
・種オスを飼わずに済む
・インブリーディング(近親交配)を避けられる
・疾病(伝染性生殖器病など)を予防できる
デメリットもしっかり見ておきましょう。
・自然交配に比べ受胎率が低い(ヤギの場合は60%と言われています)
・費用がかかる(ヤギの場合は1万円/匹程度です)
*冷蔵精子2回分の費用、及び送料
・発情時期などを見定める観察力が求められる

近親交配(インブリーディング)について、少しご説明します。
近親交配は、牛の世界ではかなり前から問題視されていて、近交係数が黒毛和牛で10%、ホルスタイン種でも6%を超えるようになっているようです。いとこ婚(6.25%)のレベルです。近交係数が5%を超えると劣勢遺伝が発現し、さまざまな弊害が出てくることがあります。生まれながらにし、体躯がきゃしゃで虚弱な体質となり、どうしても病気がちです。
ヤギは、従来、閉ざされた地域社会の中で自然交配されてきました。その地域に居るヤギはすべて特定のオスの子であることが多く、その中での掛け合わせは近親交配に拍車をかけます。
ヤギの血統登録書には父方、母方双方の祖父母までが記載されています。掛け合わせる牡と牝の血統書を照らし合わせ、祖父母までが重ならないようにすると近交係数が5%以下になります。
遠縁の血統同士で交配する手段は、今の牡と遠い系統の種牡を導入するか、人工授精を行うかということになります。私が人工授精をお奨めする大きな理由です。
 
人工授精のメリットのひとつに「計画的に出産できる」ことをあげました。計画的に、とは遠い縁組を合わせることもそうですが、お産の予定日が分かる、という意味もあり、それが実に重要です。ヤギの事故で多いのは、出産に関わること。安産な動物ですが、それでも母ヤギは命懸けです。朝起きて牧場に行ったら子ヤギが産み落とされていて、折からの寒さから低体温症で亡くなった、ということをまま聞きます。お気の毒ですが、これは繁殖をヤギ任せにした飼い主の責任です。
私の場合、出産予定日の数日前から個室に隔離します。この時期から出産後の1週間までは常夜灯をつけます。母ヤギの足下も明るくし、赤ちゃんヤギを踏みつけて圧死させないための用心です。出産時は介助し、濡れた赤ちゃんの体を拭いたり、へその緒を消毒したり、初乳の授乳を見届けることは最低限したいものです。
牧場の牝ヤギたちも、精子を提供する牡たちも血統管理されています。この血統書を見て、どのメスにどのオスの精子をつけるか計画します。これによって、血が離れて劣勢遺伝が表出しない、つまり近親交配を避けた丈夫な子ヤギを得ることができます。
人工授精など大それたこと、果たして自分にできるか、と思われるかも知れませんが、処置自体は至って簡単。受胎率は60%と言われますが、最初はダメでも2回やるつもりで臨めば、まず大丈夫です。私はいろいろ工夫して90%くらいまで上げています。そのコツもお教えします。
https://www.nlbc.go.jp/nagano/

子ヤギは生後1週間のタイミングで除角します。これには賛否色々あろうかと思いますが、私は全頭に行います。放っておくと、ヤギの成長とともに角も育ち、先端はとがります。その高さが小さなお子さんの目の高さに重なります。ヤギに悪気はなくとも、振り返ったとき、そこにお子さんがいて、事故につながれば大変なことです。ですから、心を鬼にしてやります。ただ、子ヤギに強いダメージを与えないよう、獣医さんに来てもらい、全身麻酔をかけて施術します。

オスの場合は4週間で去勢の施術もします。リング法と言われるものです。種オスで引き取りたいという要望がない限り、オスの全頭に処置します。去勢を施したオスヤギは、尿路結石をおこしがちになります。それを予防する食事療法をその後、行っていきます。食事療法というと大袈裟に聞こえますが、スーパーでクエン酸のパウダーを買ってきて、飼料にパラリとまぶすだけです。

子ヤギが産まれてしばらく、ミルクは子ヤギのものです。人間はそのお裾分けをやがていただけることになります。
始めての母ヤギは、最初の頃、大暴れするかも知れません。やがて慣れます。
私の牧場では、搾乳の時間になるとヤギたちが行列をつくって並びます。足をあげないよう縛ってしまう方もいらっしゃいますが、躾次第でしなくなります。
人間の都合や気分で搾ったり搾らない日があるのはダメです。乳房炎という病気を招きます。
こうして翌年のお産の数ヶ月前までミルク搾りが日課になります。それが楽しいとワクワク思える方は頑張ってみてください。大変だなあ、と思われる方はそこまでを目指さないことです。

9項.栄養の項でも触れましたが、妊娠や出産、子ヤギの育て方には、細心の注意が必要です。そのため専門的な多くの知識や工夫が必要になってきます。それらは、とてもこの紙面で書き尽くせるものではありません。惜しみませんので、どうぞ個別にお問合せください。
ハードルが高いとは言え、ヤギを飼う大きな魅力のひとつはやはり「子ヤギをとって、ミルクを搾る」ことです。本音を言いますと、是非そこまでやってみて欲しいと思います。大変です、大変ですが、ヤギ飼い冥利に尽きます。

<お母さんと一緒>

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