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農園リストランテ

11.私とヤギとの距離

ここは大事な項です。
私は、数頭のヤギを飼っています。今は4匹。多いときは子ヤギを含めて20匹ほどになります。
毎春、赤ちゃんヤギが生まれ、ほどなく搾乳を始めます。子ヤギは3カ月齢の頃、里親さんに渡し、それからがミルク搾りの本番。初冬まで続きます。寒くなって、乳量も落ちてきた時点で次のお産に控えて、乾乳します。
ミルクは、レストランの食材に利用する他、ペット用として販売もしています。ペット食品業の方に卸してもいます。ただ、だからと言って、ヤギを増やしてミルクを増産していくつもりはなく、ヤギたちに十分目の届く、身の丈の範囲でこれからもやっていくつもりです。ヤギは賢いし、良く懐いてくるので、彼女たちの世話をすることは私にとって、楽しい大切な日課です。つまり、私にとってヤギは、ミルクという産物を通した仕事上のパートナーであり、と同時に家族の一員というべき存在になります。
そういうヤギとの距離感において、実に悩ましいことがあります。

ヤギに限らず、生き物を飼うにあたって最も大事なことは「生命(いのち)を預かる」ということなんだ、と先に(2項)書きました。しかし、実際に飼い始めますと、このことに反せざるを得ない場面に追い込まれることがあるのです。具体的に書きます。
牧場では毎春、子ヤギが誕生します。1腹2匹生まれることが多く、オスとメスの割合は半々です。メスの子ヤギはほどなく里親さんがみつかりますが、オスはなかなか難しいのが現実です。飼い易いように去勢しても、引き取り手がない場合があります。セリ市などの道筋のある地域が、正直、うらやましいです。
こういう子ヤギは然るべきタイミングで家畜商にお渡しすることになります。彼らの最終の行先を見届けたことはありませんが、厳しいものであることは間違いないでしょう。屠畜とか、実験動物とか、そういうことです。
心情的には残してあげたい。ただ、そうやって流されるとやがてキャパを超えて、多頭崩壊を招くでしょう。
家畜商に渡すことは、所詮、責任の転嫁である気がして、一度、屠畜センタに自ら連れて行ったこともあります。肉種の畜産家はいつもこういうことをしているわけです。私たちがスーパーで買う肉などもこの過程を経て流通しています。それは家畜の運命(さだめ)であり、それを家業とする方に、私の逡巡なぞは一蹴されます。しかし、家族同様の存在の非業は、やはり辛いです。
このことはオスの子ヤギだけではありません。ヤギは寿命よりかなり早い段階で出産・ミルク搾りから卒業します。そういう母ヤギたちを終身で飼い続けるのか、それができないとなると、引退後には家畜商に渡すのか、そういう問題が出てきます。
私は第一代のヤギたちは終身飼養しました。最後を看取るところまでやりました。
だが、二代目、三代目・・・という段になり、私自身の年齢が随分重なってしまいました。果たしていつまで飼えるのか、最後まで見届けることができるかという自問自答です。
ヤギを家族同様に大事に思っているのに、そのヤギに非業の運命を自らの判断で与えてしまう、という相反するところに身が置かれるのです。

最近になって、ようやく光が見えました。第二牧場をつくって、このようなヤギを耕作放棄地の除草に利用することです。その第二牧場の運営は、私ではない、若い農家の方が引き受けてくれることになりました。ゆくゆくは人とヤギ、人と人との交流の場づくりもしていきたいという夢もあります。
この試みは始めたばかり。全国的にもこのような事例はないような気がします。いろいろ紆余曲折を経るでしょうが、積年の課題が拓いたわけです。是非軌道に乗せたいと思っています。除草隊などのヤギビジネスに結びつけられれば、オスの子ヤギたちの活躍の場にもなります。

最近、ヤギ飼いの本がいくつか刊行されていますが、このような話題に触れることはありません。ただ、これからヤギを飼われる方には、この問題について、あらかじめ、きちんと考えていただきたいと願います。
ヤギを搾乳目的で飼うことは、すなわち繁殖が伴うわけです。新しい生命(いのち)の扱いに関する問題が生じます。それを回避したいなら、繁殖はさせずに、コンパニオンな存在として終身飼養することです。
「一匹飼いは可哀そうなので、二匹にしたい、どうせならオスとメスを飼ってミルクもとりたい」という、この「どうせなら」にはくれぐれもお気をつけください。お勧めしているのが、メスと一緒に去勢したオスを飼うことです。それが兄妹ヤギであれば理想です。ずっと仲睦まじく暮らすでしょう。
繰り返しになりますが、2項の「なぜ、ヤギと暮らすのか」は、本当に大事です。
ヤギを飼う「目的や規模」、「環境」、「かけられる時間(労働)やお金」。
ひとりひとり全部違って、しかも正解のないことに、まずは是非向き合ってください。

<第二牧場のヤギたちの散歩~雪の合間に小屋から出て>

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