Mワイナリーに行った仔ヤギのオスの方が放牧中に誤って毒草を食べたらしい。
ゲーゲー戻して、ぐったりしているようだ。毒草には余り対処療法はなく、スポーツドリンクを飲ませて血中の毒を薄める程度しかできない。獣医さんを呼んで胃の洗浄をすれば良いが、かかりつけの獣医をまだみつけていないという。私からS先生にお願いするとしても、夕方で手配できる時間ではない。症状を聞くと重篤というレベルではないので、一晩様子を見てみることにした。
昨年、里子に出した青森のキャンプ場の支配人からも電話があった。オスの一匹が元気がないので、獣医さんに診てもらったら「熱中症になりかけ」と言われ、治療を受けた。それからしばらく経っても回復しないので、気になって電話をしたとのこと。歩いて腰がフラフラするらしい。いろいろ問診すると、これは腰麻痺ではないか、と思えた。もう一度、獣医さんを呼んで秋田の牧場主がそう言っていると伝えて、再診してもらうように奨めた。予防できる病気だが、ここまで来たら獣医さんに注射をお願いすることになるだろう。
どちらも命にかかわる病気であり、事故である。大事に至らないよう祈るばかりである。
さて、近交係数のことだが。
近交係数とは、正しくは近親交配係数のことである。その近交係数を語ってみようと思ったのであるが、今回の主題が「血統と繁殖」ということであれば、血統書と近交係数と倫理の3つをセットにしなければならない。いきなり近交係数を切り出すのは唐突過ぎる。まず今日のところは「血統書」のことを述べたい。
血統書と言えば、一般的にはイヌネコであり、有名なものではサラブレッドということになるだろう。ヤギに関しては「えっ、ヤギにも血統書つてあるの?」という認識だと思う。いたってマイナーである。血統書は、その個体の純種性を証明し、その品種の特質(品種ごとの標準的形質)を守るための繁殖利用や振興会、ショーなどへの参加資格の証明のために用いられることを目的にしている。義務ではない。義務でないので、登録する側になにかのメリットがあるか、逆に登録しないとなにかの不利益が生じることがない限り進まない。ヤギの話に戻ればヤギにも血統書はある。ただ、日本で登録できるのはザーネン種だけであり、登録率も高くないのでまだまだ一般的とは言えない。メリットも不利益もないので、登録しようというモチベーションが湧いて来ないだろう。
ただ、この血統書は繁殖の際は、非常に重要なものとなる。オスとメスとの血筋が分かるからである。
ヤギの血統書の場合、二代前からの血統が分かる。イヌネコ、牛では三代、サラブレッドになると五代前に遡ることができる。さらにはインブリードの場合は注記されるのだから、より細かい管理がされている、と言える。また、登録率も非常に高いのである。こうした「血統の管理」という視点からはヤギは後代であり、その登録率を見ても「管理」と言うに値するかどうか疑問がある。まずはヤギも血統を登録することが常識的である状態をつくらないといけないだろう。ヤギの場合、ほとんどの種つけは互いの血統を知らない中で進められている。インブリードとか、アウトブリードとかを論ずる以前の問題であり、私は日本でヤギの復権が為されるとしたら、血統の管理はそのための最低条件のひとつだと思っている。
悲観的なことばかり述べたが、健全になり得る可能性もある。
イヌネコのように血統の登録が進んでいる世界において、にも関わらず、故意と思える近親が起こっているのは、要するに人間の倫理が破綻しているからである。目先の収益に振り回されているのは一部のブリーダーなんだろうが、血統を「管理(把握)」できても「正しく運用できていない」のである。ある意味、最悪だ。ヤギの場合の健全性とは、つまり血統の「管理」を行う道筋で「正しい運用を定着させる」ことができる可能性が残っているという意味である。では、正しい運用を定着させるにはどうしたら良いか、言い換えれば、人は高尚な倫理観を失わないことができるのか、という命題にもなる。「人」に注目するしかなかろう。
今日のヤギ時間:4時間
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