空飛ぶヤギの続報を。長文になる。
まず、私ごとで恐縮なのであるが、企業勤めの現役時代、私はお客さま企業のITシステムの設計責任者であったが、営業の連中からは、みんなに無理だと断られたら○○のところへ行け、と言われていた。○○とは私のことです。世の中には道理というものがある。一見できないと映るものにも一筋の道はある。ただ、一歩でも踏みはずせば奈落の底に落ちてしまうので、そんなリスクの高いものは阿呆でない限り引き受けはしない。その阿呆であったわけである。たった一筋の道ではあるが、そこを曲芸的にミスなく渡っていけば向こう岸に行ける。例えば、フランスの片田舎の最新工場にFAを入れたり、体制瓦解直後のモスクワにNOTESサーバーを導入したり、電気もなにもないイラクの砂漠の真ん中に基地システムをつくったり、そういうことをしていた。そのための無邪気さと大胆さと繊細さを持っていたつもりである。「曲芸的にミスなく」なんて神業はできっこない。チョンボして奈落の底に落ち、そこから這い上がり、ということをしてきた。そんなこともあって「無理」の二文字を安易に使う輩は大嫌いである。
しかしなあ、しかし、この空飛ぶヤギは、その道筋がみえないんだなあ。リスク云々ではない。やるための道筋がない。
Uさんは、どうしても物理的に空を一緒に飛びたいらしい。秋までにヤギの等身大のオブジェをこさえて実験するそうである。どうして実際に空を飛ぶことにこだわるのか分からないし、その準備としてオブジェまでこさえる意味合いも理解できないが、ヤギと空を一緒に飛ぶこと自体、無茶であっても、あながち無理ではないと思っていた。無理でないなら、お若いのだから気の済むまでやればよろしい、そのためにはなんでも協力しようと思っていた。最大のネックは来春大学院への進学で秋田を離れる予定になったいうことである。私が描いたプランはこうだった。すなわち、来春産まれた子ヤギを生後1週間で初乳と除角が済んだ時点で親ヤギから引き離し、人工哺乳で、Uさんが育てる。人工哺乳用のミルクなどは私の方から定期的に提供する。また、育児に必要な技術を来春まで研修してUさんに習得してもらう。Uさんはこの子ヤギを3ヶ月になるまで育て、その間に交流と空飛ぶことを実現する。子ヤギは3ヶ月の時点で里親さんのところに行く。ミッションの終了、という一筋の道である。そのためにはUさんが子ヤギを預かれる身でなければならず、つまり秋田に居続けることが条件になる。それが崩れてしまったことで、無茶が無理になってしまった。来春までしか秋田にいないのだけれど、それまで空は飛びたいようだ。そうなると成体のヤギしかいない。自然哺乳育ち、体重50kgのヤギたちである。私の牧場に足繁く通ってどうにか馴らしたいとのことだが、それができたら苦労はしない。無理でしょ。馴致とは、ヤギに抵抗のあるものを受け入れされることを最終目的にするとしても、ヤギと人との信頼関係の上に成立する。そのために数年の歳月を私はかける。ときどき来て数ヶ月でできる代物ではないのである。厭がる成体のヤギをダミーの熱気球籠に載せようとしたってリードを引きずられるのがオチで、怪我をしかねない。そうするうち、Uさんがリードを手にした途端にヤギたちはヤバイことが起きるのが分かって避けるようになってしまう。首輪にリードをつなぐことさえできなくなる。もはやそこまで。来春産まれる子ヤギたちは院進学の関係で対象になれない。周年繁殖の種でこの秋に産まれる予定の子がいないか知り合いの牧場に問い合わせてみたが、期待できそうにない。土台、そのヤギと空を飛びたいんだけど協力してくれない?と言ってもまともに相手にされない。八方塞がりで、こういうときはゴリ押ししないことである。
異生物とのコミュニケーションという根本課題は十分イメージできていないようで、ここについても足繁く通うことで打開策が見えることを期待している様子だったが、これも無理でしょ。どれだけ物おじしない子でも、いくら顔馴染みになったとは言え、よそのおばちやんに自分の親と同じ距離感でのしぐさなり、言動はしない、それと同じである。ヤギにだって飼い主にしか見せないしぐさや行動があり、それを察知することでコミュニケーションが生まれる。いくら頻繁に来られたとして表面的にしか、牧場に入り込んで来れない人にはヤギたちも表面的にしか接しない。
空飛ぶヤギは馴致の問題なので「平気ちゃん」がいれば大丈夫。だが、コミュニケーションは双方向の通じ合いが必要になってくるので、馴致とはまったく異なる視点での取り組みが必要になる筈。ヤギとコミュニケーションが取れたかどうかをどのように客観的にとらえるかを研究課題にしたら面白いと思う。個人的にはこちらの課題に興味がある。平気ちゃんと一緒に空を飛んで、なにが残るんだろう、と素朴に思う。見知らぬお宅のチャイムをピンポンと鳴らし、初めて対応する闖入者を、不審者か、信用して良い相手なのか、人はなにをもって見極めるのか、を研究したことがあるそうで、ヤギとのコミュニケーションの発想もその延長にあるそうだ。面白い。物理的に空を飛ぶことよりもはるかに面白い。秋田に居るうちは。ヤギと一緒に空を飛ぼうとしたり、異生物コミュニケーションを自ら図ったりと、自分が主人公になることは、もう諦めた方が良い。馴致したヤギと空を飛ぶことと、ヤギという異生物とコミュニケーションを図ることは、混同し易いが、まったく違う。しかし、どちらにも言えることは自分が主人公になりたいならヤギを飼わないといけない、ということだ。誰かのヤギで主人公にはなるのは難しい。
それではなにもできないのではないか。そんなことはまったくない。ヤギとそれに関わる人を幅広く研究対象にし、自分は第三者の客観的立場に徹するよう見直せば良い。主人公はヤギであり、その飼い主だが、そこに研究者として入り込むのである。
この活動をプロジェクトとするなら、今はプロジェクトメーキングという大事な時期になる。秋田を来春離れることが見えてきたのであれば、このプロジェクトも大胆に見直せば良い。勇気ある路線変更である。
来春まで、秋田に居るうちにできること、来春以降、大学院進学あいなってから、そちらの地に足をつけてやっていくこと。自分がヤギ好きという感情でやりたいこと、研究テーマとして腰を据えてつきあっていけること。それを冷静に整理することが大事だと思う。
道筋のない道は渡れないから。
https://www.bbc.com/japanese/45339078
今日のヤギ時間:トータル5時間
Copyright © 2016 Farmer's Ristorante herberry All Rights Reserved.